手で打った1つの数字で、予算370万ドル超過に1年気づかなかった|そのExcel管理、もう限界かも

「うちもそろそろExcelをやめないと」と感じることがあるだろう。 しかし、どの業務からやめるべきかで見当が止まる。 手で打った1つの数字のせいで、予算を約370万ドル超えたことに1年気づかなかった会社がある。 Excelのままでいい業務と、限界を迎える業務は、どこが違うのだろうか。

手入力の数字が招いた370万ドルの予算超過

2026年9月、アメリカのバージニア州アレクサンドリア市で無料路線バスを運行する「DASH」が、ある事実を公表した。 2026年度の支出が、予算を約370万ドル上回っていたというのだ。 地元紙によると、これは予算のおよそ1割にあたる。 しかも、その超過に気づいたのは、年度が終わって締めの作業をしてからだった。

1年間、誰も気づかなかったのはなぜか。 理事会の資料には、予算を追いかけていた社内の表計算ファイル(ワークブック)に原因があったと記されている。 320万ドル分の数字が、計算式ではなく手で直接打ち込まれており、年度末の見通しを実際より良く見せていた。

Excelでいえば、合計のセルに「=SUM」ではなく、誰かが打った数字がそのまま残っている状態である。 見た目では区別がつかない。 資料は、市の会計システムの実際の数字と毎月突き合わせていなかったこと、数式や手で入れた数字を別の人が確かめる仕組みがなかったことを原因に挙げている。

Excelそのものが悪かったわけではない。 本来はシステムが担うべき「会社全体の数字の管理」を、別の人が確かめる仕組みのない1つのファイルで回していたことが問題なのだ。

表計算の役割を超えるとき

手で打った1つの数字で、予算370万ドル超過に1年気づかなかった|そのExcel管理、もう限界かもの解説スライド

では、どんな業務ならExcelのままでいいのか。 個人の試算やシミュレーション、一回きりの分析、少人数で少しのデータを一覧にする作業、帳票のレイアウトの下書きである。 これらはExcelがいちばん得意な仕事であり、無理にシステムに移すと、かえって遅くなる。

限界が来るのは、複数の人が同時に更新する業務、会社全体の顧客や商品の台帳、承認の流れがある業務、変更の履歴を残さないといけない業務である。 これらは表計算ではなく、データベースやワークフローの仕事だ。

データベースは、大量のデータを決まった形で、誰がいつ何を変えたかまで記録しながらためておく。 ワークフローは、申請から承認までの仕事の流れを、システムの上で順番どおりに進める。 最初は個人の計算表だったものが、部門の台帳になり、やがて会社の基幹業務まで背負わされる。 判断の基準は、Excelかどうかではなく、その表が表計算の役割を超えているかどうかにある。

限界を見分ける4つのサイン

自社のExcelが限界を超えているかは、4つの視点で見分けられる。

1つ目は、その表を分かっている人が1人しかいない状態だ。 2026年8月にNTTデータビジネスブレインズが営業事務経験者221人に行った調査がある。 ノーコードのデータベースを提供する企業の調査であることは割り引いて見る必要があるが、64.2%が「前任者の謎のマクロや関数に苦労したことがある」と回答している。 マクロとは、決まった操作を自動でやらせる小さなプログラムのことだ。

2つ目はデータ量に追いつかなくなっていること、3つ目は何人かで使っていてどれが正しいファイルか分からなくなっていることである。 同調査でも、不便に感じることとして「読み取り専用になって作業が止まる」が33.2%、「最新版がどれか分からなくなる」が30.6%に上った。 「最終版」「最新版(2)」というファイル名が並んでいたら、1人用のツールを何人かで使っているサインである。

4つ目は、誤りが出たときに、誰がいつ変えたのかを追えるかだ。 DASHの予算超過も、数式や手で入れた数字を別の人が確かめていなかったために発見が遅れた。 誰がいつ変えたのかを追えるかどうかは、それだけ重い意味を持つ。

該当数で現在地を知る

これらの4つの分野を診断する目安がある。 対象の業務を1つ思い浮かべて、該当する項目の数を数える。 該当が0から5個なら、Excelのままで大丈夫だ。 ファイルの保存先と使い方のルールを整えれば十分回る。 6から12個なら、該当が集中したところから一部だけツールに移す。 13個以上なら、業務の進め方の見直しとセットで、移す計画を立てる段階に来ている。

AIが入れば脱Excelは不要になるか

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最近はExcelにもAIが組み込まれている。 AIに任せれば、このまま乗り切れるのではないだろうか。 そう期待したくなる。

しかし、AIは個人の試算や分析をもっと速くしてくれるだけで、履歴を残す、権限を分ける、承認を通すという仕組みを表の中に生み出してはくれない。 限界の業務が抱える問題は、そこにある。

便利な機能をセルに組み込んだ表ほど、止まったときに困る。 Excelには、セルの中でAIに文章の要約や分類をさせる「COPILOT関数」という試験的な機能があった。 Microsoftの公式ページによると、この機能は2026年9月14日で使えなくなっている。 この関数を使った表は、計算済みの結果は残るが、計算し直すと「#NAME?」というエラーになる。

代わりにCopilotの画面に言葉で頼めばいいと案内されているが、その表を誰がどう作ったかが分かっていなければ、作り直すことはできない。 AIが入るほど、表の中身を説明できる人が大事になってくる。 AIは試算の側に、仕組みが要る業務はシステムの側に分けておくのが安全だ。

移行は1つの業務の並行稼働から

限界のサインが多い業務は、どう移せばいいのか。 勤怠や経費のようにどの会社にもある業務は、専用のクラウドサービスを選ぶ。 大量のデータをためて集計したいなら、データベースと集計結果をグラフで見せるBIツールを組み合わせる。 自社にしかない業務なら、プログラムを書かずに画面を組み立てられるローコードツールを使う。

移すときに、すべての業務を一度に置き換えようとするわけにはいかない。 今のExcelの複雑な関数やレイアウトを、そのまま新しいツールで再現しようとするのも失敗の元だ。

まずExcelのファイルを洗い出し、優先順位をつけ、1つの業務から始める。 しばらくExcelと並べて動かしてから切り替える。 DASHのように、毎月ほかの数字と突き合わせる作業は、移している間もやめてはならない。

まとめ

Excelをやめる前に、どの表が限界かを確かめる。

  • Excelが悪いのではなく、表計算の役割を超えた仕事をさせると限界が来る。手で打った1つの数字が、1年分の予算超過に気づくのを遅らせることもある。
  • 限界かどうかは、分かる人が1人しかいないか、データ量に追いつけているか、正しいファイルがどれか分かるか、誰がいつ変えたか追えるか、の4つで見る。
  • AIは試算を速くするが、履歴や承認の仕組みは作らない。移すときは1つの業務から、Excelと並べて動かしてから切り替える。

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