AI×BPOラジオ #59
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バックオフィス業務を効率化するSaaS(クラウド型のソフトウェアサービス)は数多く存在しますが、自社にどのツールが必要かを判断するのは容易ではありません。本記事では、バックオフィスSaaSカオスマップの「総務・法務編」として、代表的なツールが全体地図のどこに位置しているのかを解説します。
法務と総務のSaaS市場を比較すると、その状況には大きな「温度差」があります。法務は現在、AI(人工知能)が最も激しく進化している最前線です。一方の総務は、ワークフローと呼ばれる電子承認システムなどの定番ツールが長年シェアを握る成熟市場となっています。
この対比を踏まえながら、それぞれの領域におけるツールの選び方や、SaaSベンダーが掲げる「No.1」という実績の正しい読み解き方について詳しく見ていきましょう。
法務SaaSは「契約のライフサイクル4層」で整理する
法務領域のツールは数が多く混乱しがちですが、「1枚の契約書が生まれてから役割を終えるまで」の流れに沿って並べると、きれいに4つの層に整理できます。層によってAIの活用度合いや市場の大きさが異なる点も特徴です。
第1層「作る・審査する」:AI契約レビュー
第1層は、契約書の作成や審査を行うプロセスです。現在、法務SaaSの中で最もAIの活用が熱を帯びている領域です。契約書を読み込み、リスクや抜け漏れをAIが自動で指摘する機能が中心となります。
代表的なツールとして、LegalOn Technologiesの「LegalForce」が挙げられます。グループの有償サービス合算でグローバル7,500社を突破し、日本の上場企業の30%以上に導入されています。東京商工リサーチの2024年7月末時点の調査を根拠に「AI契約書レビューで導入者数No.1」とうたっています。最近では修正文案まで出す機能や、自社の審査基準をAIエージェントが作る機能も登場しています。
競合としては、リスク単語・不足単語・不足条文の3つの観点でチェックするGVA TECHの「OLGA」や、導入企業数4,500社を突破し30名以上の弁護士監修を強みとするリセの「LeCHECK」などがあります。AIが下書きや指摘を行い、最終的な判断は人の弁護士が行うという使い方が主流です。
第2層「結ぶ」:電子契約
第2層は、インターネット上で契約を締結する電子契約のプロセスです。この層は導入社数の桁が他の層と大きく異なる、法務SaaSにおける最大市場です。
国内の二強となっているのが、弁護士ドットコムの「クラウドサイン」と、GMOグローバルサインHDの「電子印鑑GMOサイン」です。クラウドサインは導入250万社以上、累計送信4,000万件超で、富士キメラ総研の2024年度実績を根拠に国内シェアNo.1としています。料金は月額1万1千円のライトプランに送信1件220円が加算されます。一方のGMOサインは350万社以上が利用し、上場企業の84%に導入されています。月額8,800円のライトプランに契約印1件100円が加算される料金体系です。
両者ともに、締結済みのPDF形式の契約書をAIが読み込み、契約日や満了日、自動更新の有無を自動で抽出する機能を搭載しています。その他にも、グローバル展開する「DocuSign」、会計ソフトと連携する「freeeサイン」、Adobeが提供する「Adobe Acrobat Sign」などがこの層に位置します。
第3層「貯める・管理する」:契約管理(CLM)
第3層は、締結した契約書を保管し、更新期限や条件を管理して検索できるようにするCLM(Contract Lifecycle Management:契約ライフサイクル管理)のプロセスです。契約の自動更新による意図しない支払いの継続などを防ぐ役割を果たします。
代表的なツールとして、ContractSの「ContractS CLM」があります。ITRの2021年の調査でCLM・契約管理サービス市場の売上シェアNo.1とされています。また、約200社・1万3千人が利用する「Hubble」も挙げられます。
特徴的なアプローチをとっているのが「MNTSQ」です。四大法律事務所の一つである長島・大野・常松法律事務所が監修したAIを搭載していることを強みとしています。さらに、第1層のLegalForceも「キャビネ」という契約管理ツールを提供しており、有償導入1,000社を超えています。
第4層「調べる・守る」:法務リサーチ・知財
第4層は、判例や法令、知的財産について調査・保護するプロセスです。堅実に専門的なサービスを展開する企業が並びます。
法務リサーチでは、Legal Technologyの「LEGAL LIBRARY」が有料会員1万名を突破し、2023年実績で法律文献の横断検索において売上2年連続No.1としています。第一法規の「D1-Law.com」は判例36万件超を収録し、国内初の生成AIによる判例検索をうたっています。
知財分野では、商標出願の「Cotobox」が出願取扱件数4年連続日本1位、利用5万社以上となっています。約92万件の中から最短10秒で類似商標をAIが調査します。特許分野では、「AI Samurai」や「Patentfield」が生成AIを活用した先行技術調査サービスを提供しています。
総務SaaSは「業務オブジェクト別」で整理する

法務が「契約」という1本の流れで整理できるのに対し、総務の業務は受付、備品管理、社内規程、株主総会など多岐にわたり、1本の線にはなりません。この「雑多さ」こそが総務業務の本質であるため、総務SaaSは「何を扱うか」という業務の対象(オブジェクト)別に見るのが適切です。
ワークフロー一強の成熟市場
総務SaaSの中で最も規模が大きいのが、「承認を回す」プロセスを担うワークフロー(稟議や申請の電子化システム)です。法務のようなAIの最前線ではなく、定番ツールが長年シェアを握る成熟市場となっています。
この領域で明確な実績を持つのが、エイトレッドの「X-point」シリーズです。デロイト トーマツ ミック経済研究所の2023年度の調査において、SaaS型ワークフロー市場の出荷金額シェアで13年連続No.1、占有率24.2%を記録しています。他にも、シリーズ累計30万社が利用するDONUTSの「ジョブカンワークフロー」や、導入2,000社を突破し月額500円から利用できるコラボスタイルの「コラボフロー」などがあります。
困りごとから単品で埋めるアプローチ
ワークフロー以外の総務業務も、オブジェクト別に様々なツールが存在します。
- 「印を押す」社内決裁:シヤチハタの「Shachihata Cloud」(導入116万件)
- 「人を迎える」受付:クラウドiPad無人受付でシェア1位(ミックITリポート)の「RECEPTIONIST」
- 「問い合わせに答える」社内ヘルプデスク・規程管理:「PKSHA」、マネーフォワードの「HiTTO」、累計4,000社突破の「KiteRa」
- 「会議体を回す」株主総会・取締役会:「Sharely」、「michibiku」
- 「モノを管理する」備品・固定資産:導入1,300社突破の「Convi.BASE」、上場企業中心に5,600社導入の「ProPlus」
総務SaaSを選ぶ際は、これらすべてを1社で揃えようとするのではなく、「自社で一番困っている業務はどれか」を見極め、痛いところから単品でツールを導入していくのが現実的で正解のアプローチです。
SaaS選びにおける「No.1」の正しい読み解き方
SaaSの公式サイトを見ると、多くのツールが「No.1」を掲げています。本記事で紹介しただけでも、導入者数、売上シェア、出荷金額シェア、受付シェアなど、様々なNo.1が登場しました。
これらを読み解く際の重要なコツは、「No.1には必ず何のNo.1かという軸がある」と理解することです。数える対象の軸が異なれば、別々の会社が同時にNo.1を名乗ることは十分に可能です。決して嘘をついているわけではありません。
したがって、「No.1」という言葉の響きだけでツールを選ぶのは危険です。「誰が(どの調査会社が)、いつ(どの時点・年度で)、何を(導入者数なのか、売上なのか)数えた調査か」をセットで確認する習慣をつけることが、自社に合ったSaaSを正しく選ぶための第一歩となります。
また、ツール選びで混同しやすい言葉として「電子契約」と「電子印鑑」があります。電子契約は対外的に契約を結ぶためのものであり、電子印鑑(Shachihata Cloudなど)は社内の決裁でハンコを押すためのものです。「電子印鑑GMOサイン」のように名前に電子印鑑とついていても中身は電子契約であるケースもあるため、名前だけで判断せず「対外的な用途か、社内向けの用途か」を見分けることが大切です。
まとめ

本記事では、バックオフィスSaaSカオスマップの総務・法務編として、各ツールの立ち位置や選び方のポイントを解説しました。
- 法務SaaSは「契約のライフサイクル4層」で整理する:作る(AIレビュー)、結ぶ(電子契約)、貯める(CLM)、調べる(リサーチ・知財)の順に並べる。AIが最も熱いのはレビュー層、市場が最大なのは電子契約層。
- 総務SaaSは「業務オブジェクト別」で整理し、困りごとから単品で埋める:1本の流れにならないのが総務の特徴。ワークフローなどの定番市場を除き、自社の痛いところから1つずつ導入するのが現実的。
- 「No.1」は中身を読む:導入者数、売上シェア、出荷金額など、数える軸が違えば複数社がNo.1になり得る。「誰が、いつ、何を数えたか」をセットで確認してツールを選ぶ。
自社のバックオフィス業務において、どの領域に課題があり、どのツールが最適なのか。全体地図を俯瞰することで、より効果的なSaaS導入を進めてください。
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