
「AIを導入したのに、効果が出ない」という課題を抱える企業は少なくありません。
McKinseyの調査によれば、企業の88%がすでにAIを利用しているにもかかわらず、利益に明確な成果を出せている企業はわずか6%にとどまります。
本記事では、AI導入の成果を左右する「BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング=業務の作り直し)」の重要性と、AI時代における業務再設計の具体的な5つのステップについて解説します。
そもそもBPRとは ― "デジタル化"ではなく"ゼロから組み替える"
既存手順のデジタル化はBPRではない
BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)とは、業務のやり方を部分的な改善で済ませるのではなく、根本から作り直すことを指します。ここで重要なのは、現在のやり方をそのままデジタルに置き換えることはBPRではないという点です。紙の申請書をPDF化したり、物理的なハンコを電子承認システムに変えたりすることは「効率化」であり、業務の作り直しではありません。今の手順を前提に処理速度を少し上げても、劇的な成果の変化は望めません。
AIエージェントを前提とした設計への転換
AI時代のBPRには、さらなる発想の転換が求められます。それが「AIエージェント前提の設計」です。これまでは、人が作業を行うことを前提に業務プロセスを組んでいました。しかしこれからは、AIエージェントという働き手が存在する前提で、業務をゼロから設計し直す必要があります。人がやっていた工程に後からAIを足すのではなく、最初からAIが担うことを前提に置き、どの部分を人が受け持つかを決めるという、逆のアプローチが求められます。
市場の現実 ― なぜ今、BPRが必要なのか

AI利用率88%に対し、成果を出している企業はわずか6%
なぜ今、BPRが強く求められているのでしょうか。McKinseyが2025年11月に発表したレポート「The State of AI in 2025」のデータがその理由を示しています。同レポートによると、企業の88%が何らかの業務でAIを使用しており、生成AIの利用率も72%に達しています。AIの普及はすでに進んでいると言えます。しかし、利益に対して5%以上の明確なインパクトを出せている「高業績企業」は、わずか6%しか存在しません。
成果の差は「業務を作り直したか」
8割以上の企業がAIを使っているにもかかわらず、成果を出せる企業が限られているのはなぜでしょうか。McKinseyのレポートは、高業績企業は既存の業務にAIを後付け(ボルトオン)するのではなく、プロセスそのものを再設計していると指摘しています。同レポートでは「ワークフローの再設計は譲れない条件(ノンネゴシアブル)」とまで明言されています。つまり、成果の差はAIツールの性能ではなく、業務を作り直したかどうか(BPRを実施したか)にあるのです。
主観と客観のズレという罠
Deloitteの「2026年 AI活用に関する報告」では、66%の企業がAIによる生産性向上を実感しているものの、それが収益の成長につながったのは20%のみでした。さらに、2025年の別の調査では、AIツールを使った開発者の作業が実際には19%「遅く」なっていたにもかかわらず、本人は20%「速く」なったと感じており、主観と客観に約40ポイントものズレが生じていました。使えている感覚はあるものの、実際の成果には結びついていないという罠が存在します。なお、日本のAI活用率は32%で世界最下位とも言われています。ツールが行き渡っても成果が出ない分かれ目は、BPRの実施有無にあります。
AIでBPRを実践する最適な5つのステップ
AIを活用した業務再設計の手順
では、具体的にどのように業務を作り直せばよいのでしょうか。AIを活用しながらBPRを進めるための実践的な5つのステップを整理します。
- 第1ステップ:タスク分解(「請求書処理」などの大きな業務を、受領・読み取り・照合・仕訳・承認といった細かい作業に分割する)
- 第2ステップ:業務仕分け(分割した作業を、AIエージェントに任せるものと人が残すものに振り分ける)
- 第3ステップ:介在点の設計(人が必ず確認・判断・責任を持つ場所を最初に決める)
- 第4ステップ:スモールスタート(一気に全社展開せず、ひとつの業務で小さく試す)
- 第5ステップ:測定して横展開(どれだけ速く・安くなったかを数値で測り、効果があったものを他の業務へ広げる)
重要なのは「Human-in-the-loop」の設計
この中で特にAI時代に不可欠なのが、第3ステップの「Human-in-the-loop(ヒューマン・イン・ザ・ループ)」です。これは、AIにすべてを丸投げするのではなく、業務プロセスの中に人が必ず介在し、判断や責任を持つポイントを組み込む仕組みです。前半の作業をAIが担い、最後の判断と責任は人が持つという線引きを最初に設計することで、安心してAIを活用できます。McKinseyも、測定できる価値のある業務を選び、そこを作り直し、走らせ続けて学習を積み上げることが勝ちパターンであるとしています。一度きりではなく、測定・修正・再測定のサイクルを回し続けることが重要です。
海外の最新事例 ― "後付け"は負け、"再設計"が勝つ

継続的な運用と再設計がもたらす成果
業務の再設計が成果を生むという事実は、海外の事例でも明確に示されています。McKinseyの調査における高業績企業(6%)は、営業の進め方やサポート手順、ソフトウェア開発のプロセスにAIを単に足すのではなく、まるごと作り直しています。また、Gartnerの2025年の調査では、AIで成果を出す成熟企業の45%がAIの仕組みを3年以上運用し続けているのに対し、未成熟な企業では20%にとどまりました。一度作り直して走らせ続け、学習を積んだ企業が成果を上げています。
国内外で共通する「AI前提」のアプローチ
具体的なアプローチとして、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)もAIを前提としたプロセス再設計を推奨しています。国内の事例においても、ある人材会社が求人広告の作成業務をAI前提で作り直した結果、年間4,800時間の削減を見込んでいます。国内外を問わず、単にツールを導入した企業ではなく、業務を作り直した企業が成果を出しているという結論は共通しています。
BPOとBPR ― 業務改善の入口となる「可視化」
BPOの現場でも最初は業務フローの整理から
業務を外部に委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)においても、最も重要なのはBPRです。業務を引き継ぐ際、いきなり作業を巻き取るのではなく、まずは業務フローの整理と可視化から始まります。「誰が、何を、どの順でやっているか」を洗い出し、無駄を削って整える工程です。しかし、この可視化作業は通常数週間かかる重たい工程であり、多くの企業にとって最初のハードルとなります。
AIを活用した簡易診断のすすめ
この数週間かかる可視化のハードルを下げるため、業務の棚卸しや可視化を簡易的にAIで実行するアプローチが有効です。自社の業務のどこで詰まりが発生しているか、どの部分をAIに任せられるかを診断ツールなどで把握することで、BPRの入口を大幅に軽くすることができます。いきなりAIツールを購入するのではなく、まずは自社の業務を診断し、可視化することが、失敗しない業務改善の第一歩となります。
まとめ
AIは既存の業務に後付けしても十分な効果を発揮しません。AIエージェントを前提に業務をゼロから作り直すBPRを先に行うことが重要です。本記事の重要なポイントを3点にまとめます。
- 成果が出る企業はわずか6%であり、その差は「業務を再設計したか」にある。既存のやり方のデジタル化で満足せず、業務を測って作り直すことが不可欠。
- 業務の作り直しには型がある。タスク分解、仕分け、Human-in-the-loop(人の判断点の設計)、スモールスタート、測定・横展開の順に進め、作業はAI、判断と責任は人が担う線引きを行う。
- BPRの入口は「業務の可視化」である。AIツールを導入する前に、まずは自社の業務フローを棚卸しし、どこをAIに任せられるかを把握することが成功の鍵となる。
バックオフィスのBPO・AI内製化のご相談
「どのツールを入れるべきか」の棚卸し・診断から、現場で本当に使われる運用設計まで。経理・労務・採用・営業事務のBPO、AIガバナンス整備までご支援します。
資料を見る