
会計、勤怠、チャット、電子契約。 便利だからと一つずつ導入してきたSaaS(Software as a Service:インターネット経由で利用するソフトウェア)の費用は、全部合わせて月いくらになっているだろうか。
即答できる経営者は少ない。 一つひとつのツールは月数百円から数千円と安く見えるため、部署ごとや担当者ごとに契約が積み上がりやすい。 気づけば1社で20本、30本と増え、合計するとまとまった固定費になっている。 これがSaaS費用の正体である。
コストを見直そうとするとき、単価の高いツールから削りたくなるかもしれない。 しかし、その判断はだいたい間違っている。 SaaSの料金は、単価ではなく「課金の仕組み」と「誰が何人使うか」の掛け合わせで決まるからだ。 本記事では、バックオフィス向けSaaSの料金感を整理し、業務を止めずに固定費を適正化する手順を解説する。
単価の積み上げが固定費を膨張させる
「1人あたり月額合計」で総額を測る
SaaSが高いかどうかは、1本の単価では判断できない。 単価の議論を始める前に、まずは自社がSaaS全体にいくら払っているのか、総額を出す必要がある。 健康診断で体重を測るのと同じである。
ここで役立つ物差しが、全ツールの月額合計を従業員数で割った「1人あたり月額合計」である。 計算の手順は4つのステップに分かれる。
- 第一に、契約しているSaaSをすべて書き出す。
- 第二に、年契約のものは12で割って月額に換算する。
- 第三に、ユーザー課金のものは、契約している席の数と、実際に使っている人数の両方を確認する。
- 第四に、それらを合計して従業員数で割る。
これで、自社が1人あたり月いくらのSaaS費用を負担しているかが明らかになる。
課金体系の4類型と、見落としがちなワナ

4つの課金モデル
総額を出そうとすると、ツールごとに課金の仕組みがバラバラであることに気づく。 料金体系は大きく4つに分類できる。
- ユーザー課金:1人あたり月額いくらという形で、人数に比例して総額が伸びる。勤怠やチャットなど全社で使うツールに多い。
- 定額:人数によらず月額が固定される。小さい会社には割高になり、大きい会社には割安になりやすい。
- 従量課金:請求書の発行枚数や書類の読み取り枚数など、処理した量に応じて増える。
- フリーミアム:基本無料で、機能や人数の上限を超えると有料になる。
無料で始めたはずが、いつの間にか有料プランに移行していることは珍しくない。
下限と縛りという実質単価の引き上げ
さらに、この4類型の周辺には二つのワナが潜んでいる。
一つは、最低契約数である。 「1人あたり数百円」と謳っていても、「10人分から」といった下限が設定されていることがある。 5人の会社でも10人分を払うことになれば、実質的な単価は倍になる。
もう一つは、年契約の縛りである。 月払いより安く見えても、途中で使わなくなった場合に残りの期間分は返金されない。 実務では基本料に従量課金が乗るハイブリッド型も多く、想定より処理量が多いと請求が跳ね上がる。
料金ページの最も目立つ数字だけを見て契約すると、こうした仕組みを見落としやすい。 契約前には、下限、契約期間、超過料金の三つを必ず確認しておきたい。
カテゴリごとの相場観と、総額を決める構造
全員が使うツールと、限られた人が使うツール
では、それぞれのカテゴリはどの程度の価格帯に収まるのだろうか。 SaaSの料金は改定が激しいため、ここでは個別の金額ではなく「桁感」で構造を捉える。
まず、勤怠、労務、チャットといった「全員が使う」カテゴリである。 ここは1人あたり数百円の桁が主戦場となる。 単価は最も安いが、全従業員に掛かるため、総額に占める割合は上位に来やすい。
逆が、会計、給与、請求といった「経理まわり」のカテゴリである。 プランによっては月数千円から数万円の桁となり、単価としては高く見える。 しかし、使うのは経理担当の数人だけである。 そのため、総額に占める割合は意外と小さいことが多い。
電子契約や請求書の発行・受取、AI-OCR(人工知能を用いた光学文字認識)などは従量課金が中心である。 これは書類の枚数次第であり、取引の多い会社ほど費用が膨らむ。
そして、グループウェアやオフィススイート(Google WorkspaceやMicrosoft 365など)がある。 これらは1人あたり課金で全員に掛かるため金額は大きいが、中にチャットも会議システムもストレージも含まれている。 単体ツールを何本も代替しうる、いわば「幕の内弁当」である。
単価の高い順に削るという誤り
高いツールが必ずしも削る対象になるわけではない。 誰が何人使うか、量がどれだけあるかで総額が決まる。 単価の高い会計ソフトを気にしていた企業が、実は全員に配っていた数百円のツールのほうが合計額はずっと大きかった、という事例もある。
単価の高い順に削るという発想は、ここで事実に裏切られる。
コストを見直すための3つの観点

使っていない席の解約
構造が見えたら、次はどこを見直すかである。 観点は三つに絞られる。
一つめは、使っていない席の整理である。 ユーザー課金のツールで、退職した人のアカウントが残っていたり、誰もログインしていない席に払い続けていたりする。 これは解約や乗り換えではなく、契約している席数を実態に合わせるだけである。 最も早く効果が出る。
機能の重複と過剰なプランの是正
二つめは、機能の重複の解消である。 同じカテゴリのツールを部署違いで2本契約していることがある。 あるいは、先ほどの「幕の内弁当」の例である。 スイートの中に含まれているチャットやストレージの機能を、わざわざ単体で別契約しているパターンだ。 すでに持っている機能に二重で払っていないかを確認する。
三つめは、プランの過剰契約の是正である。 導入時に「念のため」と上位プランを選び、その機能を誰も使っていないことがある。 逆に、プランを抑えたせいで手作業が残っているなら、それは上げるべきである。 利用実態とプランを合わせることが、この観点の目的である。
棚卸しをして二重払いを解消するだけで、新しいことを何もしなくても月数万円単位で費用が変わることは珍しくない。
乗り換えは最後の手段である
棚卸し、統合、そして乗り換え
コスト見直しというと、いきなり安いツールへの乗り換えを検討しがちである。 しかし、実行の順番はむしろ逆である。
第一に、棚卸しを行う。 何に、いくら、誰が使っているかを見えるようにする。 第二に、統合である。 今の契約のまま、席を直し、重複をやめ、プランを合わせる。 乗り換えゼロでできることが、実はたくさんある。 第三に、それでも残る課題に対してだけ、乗り換えを検討する。
なぜ乗り換えを最後にするのか。 乗り換えには、データ移行、社員の教育、業務手順の作り直しという見えないコストが付随するからだ。
業務の棚卸しを伴わない削減は人件費に跳ね返る
もう一つ、重要な注意がある。 安さだけでツールを削らないことである。
ツールを消して業務が回らなくなれば、結局は人が手作業でカバーすることになる。 削減したはずのコストが、人件費として逆戻りしてしまう。 SaaSの費用は、それがどの業務を支えているかとセットでしか判断できない。
だからこそ、ツールの棚卸しは、業務の棚卸しとセットで行う必要がある。 道具の話に見えて、結局は業務の話に帰着するのだ。
まとめ
本記事では、SaaSのコスト見直しの手順と相場観について解説した。
- SaaSが高いかは単価では分からない。「1人あたり月額合計」で総額から見る。
- 課金は4類型(ユーザー課金・定額・従量・フリーミアム)。最低契約数と年契約縛りのワナに注意する。
- 見直しは席・重複・プランの3観点。棚卸し、統合、乗り換えの順で進める。
- 安さだけで削らず、業務が回る構成を維持する。
カテゴリ別の100ツールの料金早見表や「1人あたり月額合計」の計算ワークシートは、ホワイトペーパー「バックオフィスSaaS 100ツール 料金早見表【2026年版】」にまとめられている。 自社の現在地を把握し、業務とセットで適正なコスト構造を設計する一助としてほしい。
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