AIの請求書が読めない|法人のトークン代、誰が見ていますか

先月のAI利用料は、いくらでしたか。

即答できる会社は、まだそれほど多くないはずです。

マネーフォワードが2026年8月17日に発表したプレスリリースに、この1年で何が起きたかを示す数字があります。ビジネスカードにおけるAI関連の決済額が、2025年6月からの1年間で4.47倍に膨らんでいるという事実です。

予算の話としては、けっこうな事件です。しかし、多くの会社でその増え方を管理部門が把握していません。

なぜAIの請求は月末までわからないのか

AIの料金は「トークン」という単位に対してかかります。

トークンとは、AIモデルがテキストを理解・生成するための最小単位です。実務上は、AIに読ませた量と書かせた量の合計だと考えて構いません。

料金は、このトークンの量に対してかかります。使った分だけ払う。ここが従来のSaaSと決定的に違うところです。

SaaSは「1人あたり月いくら」の固定費でした。人数が決まれば来月の請求額も決まり、期初に予算が組めます。

AIはそうはいきません。同じ人数でも、その月にどれだけ使ったかで金額が変わります。しかも使い方によって桁が変わるのです。

メールの下書きを1本頼むのと、100ページのPDFを丸ごと読ませて要約させるのとでは、消費するトークンが二桁違うことがあります。さらに、AIが自分で何度も考え直しながら作業を進めるエージェント機能を使うと、1回の依頼の裏で何十回もやりとりが発生します。

本人は1回頼んだつもりなので、現場に悪気はありません。契約した時点では金額が決まっておらず、請求書が来て初めてわかる。電気代や携帯の通話料に近い変動費です。

固定費は毎年見直すのに、変動費は「そういうものだから」で通ってしまいがちです。そして今、その変動費がいちばん伸びています。

4.47倍という数字が示す実態

AIの請求書が読めない|法人のトークン代、誰が見ていますかの解説スライド

リリースの背景説明には、性格の違う2つの数字が出ています。

1つは外部の調査です。IDC Japanが2026年3月に発表した市場予測によると、2026年の国内AIインフラ支出は前年比18%超増の8,210億円、2029年までの年平均成長率も約13%と見込まれています。

市場全体が伸びているという、よく見る種類の数字です。

本当に効くのはもう一方の、マネーフォワード自身が持っている決済データです。ビジネスカードにおけるAI関連の決済額が、2025年6月から2026年6月の1年で4.47倍になりました。

推計ではなく、自分のところを通った実際の支払いです。市場予測は外れることがあります。しかし、カードを切った履歴は事実です。

4.47倍というのは、現場の感覚とも合います。少し前まで「月3,000円の有料版を部長だけ入れよう」という話だったものが、今は部署ごとに文字起こし、議事録、コード生成など、バラバラのツールが入っています。

各部署が業務効率化のために善意で入れているので、止める理由がありません。実際に効果は出ています。

効いているのに、どれがどれだけ効いているのかがわからない。使っていることが問題なのではなく、実態が見えないことが問題なのです。

見えないコストは個人カードの中にある

バックオフィスの実務者にとって、AIの問題は最初「経費精算」として現れます。

ある月の精算に、見慣れない英語のサービス名が並ぶ。金額は1件数千円の少額なので、いちいち止めません。しかし、それが複数人分、数ヶ月続くとそれなりの金額になります。

誰が何に使っているのかは、経理には最後までわかりません。社員が自分のクレジットカードで契約して、あとから精算しているからです。

法人カードを1枚しか持っていない会社は多く、都度お願いするのが面倒で現場が立て替えます。会社が把握していないツールが業務で使われている、シャドーITと呼ばれる状態です。

リリースにも「社員の個人立替を含めた正確な利用実態の把握」という表現が出てきます。わざわざ個人立替を含めたと書いているのが、実態を知っている証拠です。

これを放置すると、2つの意味で損をします。

1つは重複契約です。A部署とB部署が同じツールを別々に契約していると、まとめて契約すれば効くはずの割引が効きません。

もう1つが退職です。契約した本人が辞めると、アカウントもパスワードもわからず誰も解約できないまま、請求だけが毎月きれいに続きます。

量と金の両側から挟む打ち手

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マネーフォワードが出した打ち手は2つあります。

1つ目が、新プロダクト「マネーフォワード クラウドAIトークン管理」です。API連携などでデータを取り込み、ChatGPTやClaudeなどのAIツール、LLMモデル、そしてユーザーごとの利用量をダッシュボードで一元管理します。

ユーザーごとがわかるので、部署別に配賦できます。期間比較もできるため、先月より増えた原因はこのチームのこの使い方だ、という追い方が可能です。

驚くべきことに、無償です。自社の会計ソフトを使っていなくても、マネーフォワードIDを取得すれば利用できます。AIのコスト管理はこれから全社が必ず通る道なので、そこを押さえに来ています。

2つ目の打ち手が、「マネーフォワード ビジネスカード」の使い方の提案です。

このカードは複数枚発行でき、カードごとに上限額や用途を指定できるカードコントロール機能があります。これを使って、AIツールの決済専用カードをつくり、支払先を限定した運用を提案しています。

現場にAI用のバーチャルカードを渡し、上限を月1万円と決めておく。そうすると、立て替えが発生せず、AI関連の支出だけが1つの明細にまとまり、上限を超えたら物理的に止まります。

予算超過が事後報告ではなくなります。経理が気づくタイミングが、請求書ではなく契約の瞬間になるのです。

トークン管理のダッシュボードが「使った量」を見る道具、ビジネスカードが「払った金」を止める道具です。片方だけでは、なぜ増えたかがわからず、止めることもできません。量と金の両側から挟む設計です。

Return on Tokenで投資対効果を測る

このリリースで目を引く言葉があります。「Return on Token」、略してROTです。

AI利用コストは変動するため、投資対効果を正確に把握するには、AIへの投資がどれだけビジネス的価値を生むかという観点が必要だ、と書かれています。

BPOの見積もりも、単価だけ見ると判断を間違えます。時間単価が安い会社に出したら手戻りが増え、結局こちらの確認工数が倍になった、というのはよくある話です。大事なのは単価ではなく、払った金額に対して自社の中から何時間戻ってきたかです。

トークン代も同じです。月10万円かかっていても、それで月100時間戻ってきているなら安い。逆に月1万円でも、誰も使っていないなら全額無駄になります。

可視化の目的は、削減ではありません。使いすぎを止めるためだけの道具として入れると、現場は怒られる前に使うのをやめてしまいます。

AIが定着しない会社の共通点は、試して失敗した人が責められる文化があることです。見える化は、締めるためではなく、配り直すために行います。見えるようになって初めて、この部署にはもっと配ろうという判断ができるのです。

まとめ

  • AIのコストは、SaaSのような固定費ではなく、使った量で決まる変動費です。使い方ひとつで桁が変わり、契約時点では予算が組めないという性質を管理部門が知っておく必要があります。
  • すでに支出は動いています。少額の個人立替として精算の明細に散らばっているため、新しいツールを買う前に、まずは直近3ヶ月の精算を「AI関連」で串刺しに見て実態を把握します。
  • 打ち手は「量」と「金」の両側から挟むことです。利用量のダッシュボード化と、専用カードによる支出制限を組み合わせます。
  • AI関連費用を独立した勘定で管理し、支払った金額に対して何時間戻ってきたか(Return on Token)を測ります。そのためには、元の業務に何時間かかっていたかを知るための業務の棚卸しが必要です。

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