kubell決算|「SaaS is Dead」と、自社の決算資料に書いた会社

SaaSの時代は終わった。そう感じることがあるだろうか。

ビジネスチャット「Chatwork」を運営する株式会社kubellは、2026年12月期 第2四半期の決算説明資料に「SaaS is Deadの構造とChatworkへの影響」という見出しを掲げた。SaaS企業が、自らの決算資料でSaaSの終わりを宣言している。

主張の核は、AIエージェントの普及により、ERPや会計などの**基幹系SaaS**は、利用人数に応じた**席数課金**が正当化されなくなるというものだ。これは、わずか1日違いで開示されたfreeeの決算資料が示した「正本を持つ基幹系こそAI時代に強い」という見立てと、真っ向から対立する。

同社の資料から、AI時代におけるSaaSの構造変化と、中小企業向けBPOの新しい形を読み解く。

SaaSは3つに分かれ、基幹系は弱くなる

資料では、SaaSを基幹系、情報系、コミュニケーション系の3つに分類し、AIの影響を書き分けている。

基幹系とは、ERP、会計、人事、CRMなどのシステムを指す。ここには厳しい未来が描かれている。AIエージェントが人間の代わりにシステムを操作し、UIを介さずにAPIを直接呼び出すようになるからだ。

人間が画面を操作しないのであれば、1人いくらという席数課金は成り立たなくなる。UIそのものも不要となり、価値が減じるという理屈だ。

一方で、文書作成やBIなどの情報系SaaSは、AIによる内製化が容易になる。機能の差別化が消滅し、激しい価格競争に陥る。

コミュニケーション系だけが残るという賭け

では、何が残るのか。資料が唯一、追い風を受けるとしたのがコミュニケーション系である。

ビジネスチャットは人間が直接使うことに価値があり、AIに代替されない。むしろ、人間とAIが対話する基盤として価値が上がるという主張だ。自社の持ち場だけを肯定するポジショントークだと要約できてしまうかもしれない。

しかし、「SaaS is Dead」という言葉自体は、2024年12月にMicrosoftのサティア・ナデラCEOが発したものを発端としている。業界で議論になっている前提から逃げず、自社の構造に当てはめた点は注目に値する。

チャットをただの連絡ツールで終わらせず、人間の作業者とAIの両方が控える協働プラットフォームへ進化させる。それが同社の描く青写真だ。

中小企業にBPOが浸透しなかった「2つの理由」

kubell決算|「SaaS is Dead」と、自社の決算資料に書いた会社の解説スライド

この構想を実現する手段が、**BPaaS**(Business Process as a Service)である。ソフトウェアを提供するのではなく、業務プロセスそのものを提供するクラウドサービスを指す。

SaaSは自力で解決できるIT先進層向けだが、BPaaSはSaaSの導入判断も使いこなしも難しいマジョリティ市場向けと位置づけられている。

これまで、中小企業にBPO(業務委託)は浸透してこなかった。資料はその理由を、供給側と需要側の両面から正確に突いている。

小ロットは採算が合わず、業務は切り出せない

供給側の問題は、小ロット案件では採算が合わないことだ。

個別対応を前提にすると、月5万円の案件でも月100万円の案件でも、事前のヒアリングや業務整理、マニュアル作成にかかる工数は大して変わらない。小さい案件を丁寧に受けると、固定費が先に立って赤字になってしまう。

需要側の問題は、業務が属人的で切り出しが難しいことだ。

言語化やマニュアル化がされておらず、そもそも委託できる状態にない。何を頼めばいいか分からず、委託の準備そのものが重い仕事になってしまう。

供給側は採算が合わず、需要側は準備ができない。結果として、参入障壁が高く競争が起きない「ブラックオーシャン市場」が放置されてきた。

月3.8万円から。小ロットを成立させる「型化」

この空白市場を取りに行くのが、同社の「タクシタ」というサービスだ。月額3.8万円から、実働月10時間という値づけで提供されている。

人を雇うのではなく、「ちょっと手が足りない」を埋める価格帯である。いきなり高額な契約は結べなくても、この金額なら試すことができる。

経理の仕訳や請求書発行、労務の勤怠管理、事務のデータ入力などが依頼可能だが、小ロットで利益を出すために2つの壁を壊している。

配布網とAIでコストを下げる

一つは、顧客獲得コストとオペレーションコストの削減だ。

Chatworkはすでに100万社以上の導入企業を持つ。この既存顧客に声をかけるだけでよいため、新規開拓の費用がほぼかからない。さらに、AIを活用することで作業自体のコストも下げている。

やり方を固定し、要件定義をなくす

もう一つが、提供する業務の「型化」である。

一般的なBPOは、顧客ごとのやり方に合わせることを売りにしてきた。しかし、合わせるからこそ要件定義が重くなり、価格が上がる。

タクシタはその逆を行く。標準化された業務フローに則り、やり方は選べない代わりに結果を約束する。顧客に要件定義をさせないことで、個別の違いに関係なく発注できる仕組みを作った。

機能ではなく「業務の文脈」で勝負する

AIによってプロダクトの開発コストが下がれば、機能による差別化は急速に縮まる。そこで競争優位の源泉となるのは、すでに何人に届いているかという「配布網」の力だ。

しかし、同社はもう一つの強力な武器を挙げている。それが「顧客固有の業務コンテキスト(文脈)」である。

泥臭い代行がAIの精度に変わる

AIは公開情報で学習しているため、そのまま使えば一般論しか返ってこない。実務で役立てるには、顧客の業務フローや担当者の課題感、過去の対応履歴といった社内の暗黙知を渡す必要がある。

そして、その文脈を最も集められるのは、実際に業務を代行している人間である。

資料には、BPaaSオペレーターが泥臭くコンテキストを収集し、構造化すると書かれている。現状のBPaaSは人手が重く、利益率が低いタイムチャージ(時間課金)のモデルかもしれない。しかし、代行を通じて顧客の業務の文脈が溜まれば、それがAIの精度向上につながり、結果的に人手を減らすことができる。

実際、代行業務の効率化のために作られたAIエージェントが、単体で事業性を持つと評価され、新規事業として独立した事例も紹介されている。外から技術を買ってくるのではなく、自社の現場からプロダクトを生み出す。これが、AI活用の最も現実的な道筋だろう。

まとめ

kubellの決算資料は、SaaSの未来とBPOの現在地を鮮明に映し出している。ここから得られる実務への持ち帰りは以下の3点である。

  • **値づけを時間から成果へ変える**:時間単位で売っている限り、AIで効率化した分だけ自社の売上が減る。タスク単位の固定料金への移行が必要になる。
  • **やり方を型化し、要件定義を省く**:顧客のやり方に合わせるのではなく、標準化した型を提供することで、小ロットでも採算が合うモデルを作る。
  • **代行を通じて業務の文脈を溜める**:機能ではなく、泥臭く集めた顧客固有の暗黙知こそが、AIの精度を高める最大の武器になる。

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