面接に来たのはAIだった|なりすまし応募に、管理部はどこで気づけるのか

オンライン面接に、AIのなりすまし応募者が現れる。

そんなSFのような出来事が、2026年には日本の採用現場で現実のものとなっている。

9月には東京のAIベンチャーの面接に、口の動きが合わず自分を「ご自身」と呼ぶ候補者が現れた。

同じ顔と声のAIは、7月にも別の会社の面接を受けている。

3月には、実在するエンジニアの経歴と顔を使ったなりすまし応募も起きた。

これらは単なるいたずらではない。

7月には、日本を含む11か国の政府機関が共同で注意喚起を出している。

背景にあるのは、国家的な資金獲得のネットワークだ。

知らずに雇って給与を支払えば、企業側が制裁違反に問われるおそれすらある。

では、巧妙に作られたAIのなりすましを、採用担当者はどう見抜けばいいのだろうか。

実は、面接の画面だけで見抜こうとするのは得策ではない。

履歴書、身分証、口座、端末の送り先。

これらはすべて、入社手続きの過程で管理部の手を通る。

面接をすり抜けたとしても、経理と総務の照合によって確実に止めることができるはずだ。

実際に、何が起きたのか

9月9日、AIベンチャーである**KOWRO**(コヲロ)の原田祐二CEOが、X(旧Twitter)に「人生で初めてAIが面接に来ました」と投稿した。

公開された動画を見ると、候補者は9年間のウェブシステム開発経験を流暢に語っている。

しかし、話している内容と口の動きがまったく一致していない。

面接担当者がそれを指摘すると、候補者は「いいえ、ご自身が喋っていますよ」と不自然な日本語で返答した。

ここで、相手が人間ではないという確信に至ったという。

この「候補者」は、1社だけに現れたわけではない。

7月下旬には、別の会社である**エーアイスクエア**の面接にも、まったく同じ顔と声のAIが応募してきている。

同じAIが、複数の会社を回っているのだ。

手口は、架空の人物を作り出すものだけではない。

Business Insider Japanが報じた3月の事例では、物流向け**SaaS**(インターネット経由で利用できるソフトウェアサービス)のベンチャー企業に、実在するエンジニアの経歴と見た目を使った応募者が現れた。

履歴書は本物の経歴であり、オンライン面談の画面には本人と同じ顔が映っていた。

しかし、履歴書に書かれた言語レベルと実際の日本語能力が一致せず、文法は不自然なのに受け答えの反応は妙に速かった。

映像の解像度が極端に低く、顔の動きも不自然だったという。

面談担当者が違和感を持ち、履歴書にある実在のエンジニアの所属企業へ問い合わせたことで、本人は面談を受けていないことが即日判明した。

映像だけをAIで生成し、声は人間が話しているパターンである。

誰が、何のためにやっているのか

面接に来たのはAIだった|なりすまし応募に、管理部はどこで気づけるのかの解説スライド

なぜ、これほど手の込んだなりすましを行うのだろうか。

7月31日、警察庁、外務省、財務省、経済産業省などは、米国や韓国など11か国の関係機関と共同で「北朝鮮IT労働者に関する各国・企業等に対する注意喚起」を公表した。

仮訳によれば、北朝鮮は核兵器や弾道ミサイル計画の資金源とするため、偽りの身分で遠隔から収入を得るIT労働者のネットワークに依拠しているという。

彼らは身分を隠蔽し、AIを含む高度な手法を活用して世界的に活動を拡大させている。

目的は給与だけではない。

注意喚起には、企業に対して内部脅威をもたらし、データ流出や暗号資産、機微情報の窃取に関与していると記されている。

入社してリモートで働きながら、給与を送金し、社内のデータも持ち出すのだ。

さらに深刻なのは、雇った企業側のリスクである。

北朝鮮IT労働者と契約を交わし、対価を支払う行為は、日本や米国などの国内法に違反し、法的責任を問われるおそれがある。

だまされた被害者では済まされないのだ。

彼らの手口は巧妙である。

第三国の代理人から借りた身分証の画像でアカウントを作り、面接には代理人を立てる。

銀行口座への直接振込を避け、送金サービスや暗号資産での支払いを求める。

会社のパソコンは海外の代理人が受け取り、そこに本人が遠隔で接続する「ラップトップ・ファーム」という手法を使い、端末の送り先が本人の住所ではないことを隠す。

国が示している「怪しい特徴」

では、雇う側はどこに注意すべきか。

注意喚起では、雇用や業務発注を行う企業向けに6つの特徴を示している。

1つ目は、プロフィールに機械翻訳とみられる不自然な表現があることだ。

ただし、翻訳サービスや大規模言語モデルを使えば、自然なプロフィールを作成できることにも留意が必要である。

2つ目は、ビデオ会議中の不整合である。

写真付き身分証との不一致や、今回の事例のように口の動きが合わないといった、人工生成されたようにみえる映像がこれに当たる。

3つ目は、テレビ会議形式の打ち合わせを拒否すること。

4つ目は、一般的な相場より安価な報酬で業務を募集していること。

5つ目は、複数人でアカウントを運用している兆候があり、時間帯によってやり取りする相手が変わること。

6つ目は、暗号資産での支払いを要求することだ。

注意喚起は、これらの特徴が複数当てはまる場合、不正に仕事を得ようとしている可能性があるとしている。

3月の事例では、言語レベルの不一致と映像の不自然さが当てはまっていた。

9月の事例でも、映像の不整合と不自然な日本語が確認されている。

どちらの事例も、面接担当者が違和感を口に出し、確認に動いたことで被害を未然に防ぐことができた。

管理部が止められる4つの場面

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面接の画面だけで完璧に見抜くことは難しいかもしれない。

しかし、採用から入社までのプロセスには、管理部が不正を止められる関門がいくつもある。

米国の**FBI**(連邦捜査局)が2025年1月に出した注意喚起では、面接、入社手続き、そして雇用期間を通じて本人確認を実施し、できるだけ対面で行うことを求めている。

これを管理部の業務に当てはめると、4つの場面が浮かび上がる。

1つ目は、面接である。

カメラ越しに身分証を見せてもらう、顔の前で手を振ってもらうなど、不意の動作を求める。

映像を合成しているAIは、こうした予期せぬ動きに対応しきれないことが多い。

2つ目は、内定から入社手続きの段階だ。

総務や人事が、身分証の原本、住民票、マイナンバー、口座の名義を確認する。

FBIは、人事システムを横断して、同じ履歴書の内容や連絡先を使っている他の応募者がいないか、電話番号やメールアドレスが使い回されていないかを確認するよう推奨している。

3つ目は、経理による照合である。

給与の振込先と、端末の送り先を確認する。

振込先の名義が本人と一致しているか。

パソコンの配送先が、住民票の住所と一致しているか。

第三者の口座やラップトップ・ファームを使った手口は、この2つの照合で必ず引っかかる。

4つ目は、入社後の権限管理だ。

情報システム部門や管理部が、入社初日に付与するアカウントを最小限に制限する。

ローカル管理者アカウントを無効にし、リモートデスクトップのインストール権限を制限する。

また、複数の音声・ビデオ通話を同時に行えるソフトウェアの使用を監視することも有効である。

中小企業が明日からできる対策

大企業のような高度な不正検知システムを導入できなくても、手順を少し変えるだけで大半のなりすましは防ぐことができる。

まずは、選考プロセスの中に「対面」を1回入れることだ。

フルリモートの職種であっても、最終面接か入社手続きのどちらかを対面で行う。

それが難しい場合は、オンラインで身分証の原本をカメラに映してもらい、その場で顔と照合する手順を必須にする。

次に、「名義と住所は本人に一致」というルールを管理部内で徹底する。

給与の振込先は本人名義の口座のみとし、端末の配送先は住民票の住所のみとする。

例外は一切認めない。

この単純なルールだけで、注意喚起で指摘された手口の多くを無効化できる。

そして、違和感を口に出してよいと決めておくことだ。

「失礼になるかもしれない」という遠慮が、不正をすり抜けさせてしまう。

面接で本人確認の動作を頼むことや、応募書類の実在確認を行うことを、採用の標準手順として明文化する。

変だと思ったら面接を終了し、契約や支払いに進まない。

この方針を手順書の1ページに書き加えておくだけで、管理部の防波堤は強固になる。

まとめ

AIを使ったなりすまし応募は、すでに日本の採用現場で起きている現実の脅威である。

しかし、恐れる必要はない。

面接の画面で見抜けなかったとしても、管理部の確実な手続きによって食い止めることができる。

  • AIのなりすまし応募は国内で複数確認されており、背後には国家的な資金獲得のネットワークが存在する。
  • 知らずに雇って報酬を支払えば、企業側が制裁違反に問われるリスクがある。
  • 給与の振込先(本人名義)と端末の送り先(住民票の住所)の一致を例外なくルール化することで、不正を防ぐことができる。

AIで精巧な映像や音声を作ることはできても、本人名義の口座と住民票の住所を偽造することは容易ではない。

経理と総務の地道な照合こそが、企業を守る最後の砦となる。

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