Google Workspaceの電子署名は契約に使えるか|揉めたときの証明と登記の壁

「Google Workspaceを契約していれば、追加料金なしで電子署名が使える。」X(旧Twitter)でこのような投稿が回り、「クラウドサインのような専用サービスはもう不要になるのではないか」と感じる経営者もいるでしょう。自社もこれに乗り換えていいのでしょうか。

結論から言えば、使える書類と使えない書類があります。その差を決めているのは、電子署名の法律そのものではありません。あとで揉めたときに何を証明できるかと、役所に出せるかの2点です。

Googleの電子署名が提供する機能

GoogleドキュメントかPDFを開き、署名欄や日付のフィールドを置いてメールで依頼します。相手は名前を入力するか、画面上で手書きして署名します。対象となるのは、Business StandardやBusiness Plus、Enterpriseの各エディション、個人向けのWorkspace Individualなどです。Business Starterは含まれていません。

依頼される側は、Googleアカウントを持っていなくても署名できます。これは2024年6月の公式ブログでも明記されています。署名が終わると、監査証跡のページが付いたPDFが完成します。誰が、いつ、何をしたかというイベントの記録と、名前、メールアドレスが残ります。一つの文書につきフィールドは200個まで、署名者は10人まで設定できます。

管理コンソールで組織単位ごとにONとOFFを切り替えることも可能です。初期設定はONになっているため、勝手に使われると困る会社は設定を見ておく必要があります。

ここまでは、ごく一般的な電子署名の機能に見えます。しかし、公式ヘルプに書かれていないことがあります。相手がどう本人確認されるのかという記述です。

法律が求める「推定効」と公式情報の空白

Google Workspaceの電子署名は契約に使えるか|揉めたときの証明と登記の壁の解説スライド

本人確認の記述がないことは、法律上どのような意味を持つのでしょうか。電子署名法第3条には、本人だけができる電子署名が付いていれば、その文書は本人が作ったものと推定する、という規定があります。裁判で「私は署名していない」と争いになったときに働くこの効果を、**推定効**と呼びます。

2020年に総務省・法務省・経済産業省が出したQ&A(2024年1月一部改定)では、この推定効が働く要件として、本人以外が同じことをできない水準の仕組みを求めています。Q&Aが例示しているのは、メールアドレスとパスワードに加えてSMSなどでワンタイムパスワードを受け取る、2要素認証です。

Googleの電子署名はどうでしょうか。社内の人間が署名する場合は、会社が2段階認証を強制していれば、その認証を通っています。一方で、外部の人間が署名する場合、公式に書かれていない方法で本人確認されます。同じ機能でも、署名者が誰かで証明の強さが変わってしまうのです。

公式情報から確認できない以上、推定効を当てにして使う根拠はありません。もちろん、電子署名がなくても契約自体は成立します。裁判になったときは、監査証跡とメールのやり取り、業務の実態を積み上げて「本人が署名した」ことを証明していくことになります。

登記の添付書面には使えない

もう一つ、明確に使えない場面があります。商業登記の添付書面です。

登記に使える電子署名は、法務省がサービス名と電子証明書の発行者の組み合わせで掲載しているものに限られます。法務省のページには、クラウドサインや電子印鑑GMOサイン、DocuSignの「DS Email」などが並んでいます。ここにGoogleの電子署名は掲載されていません。

取締役会の議事録をGoogleで署名しても、登記には使えません。登記に出す書類は、法務省の掲載リストで確認してから署名するのが原則です。

実務における書類の仕分けと運用

Google Workspaceの電子署名は契約に使えるか|揉めたときの証明と登記の壁の解説スライド

では、実務ではどう使い分ければいいのでしょうか。自社の書類を、3列に仕分けるとうまくいきます。

一つめは、使える書類です。揉めたときの損害が小さく、相手も社内か近い関係の書類を指します。社内の同意書、秘密保持の受領確認、少額の業務委託の発注書などがこれに当たります。

二つめは、条件つきで使える書類です。金額が大きい契約や、相手が外部の会社の契約が該当します。相手にこの方式でよいか事前に確認することと、署名の前後のメールや発注の記録を残すことが条件になります。

三つめは、使わない書類です。登記に添付する書類や、法令で書面や特定方式が求められる契約、相手方の本人確認が本質になる保証契約などです。これらは当事者型の専用サービスか、紙を使います。

労務の書類はどうでしょうか。労働条件通知書は、本人が希望した場合に電子で交付できます。本人の希望を先に確認して記録を残したうえで使う分には、実務で成り立ちます。

なお、電子の契約書であるため印紙税はかかりません。完成したPDFは電子取引のデータとして、電子帳簿保存法に沿って保存する義務があります。専用ソフトがなくても、ファイル名を「日付_取引先_金額」の規則で付け、訂正削除の防止に関する規程を備え付ければ足ります。

まとめ

Google Workspaceの電子署名は、社内文書や少額の書類を追加料金なしで電子化できる強力な道具です。一方で、登記に使えたり、相手の本人確認の方式が明示されていたりする専用サービスを完全に置き換えるものではありません。

会社の規模ではなく、書類の種類と相手によって使い分ける時代になった、と捉えるのが正確でしょう。実務に導入する際の持ち帰りは以下のとおりです。

  • 自社で署名が発生する書類を書き出し、「使える」「条件つき」「使わない」の3列に仕分ける。
  • 社内は2段階認証を必須にし、外部の署名者は依頼前にメールアドレスを電話等で確認して記録を残す。
  • 登記の添付書面には使えないため、法務省の掲載サービスとの併用を最初から前提にする。
  • 電子帳簿保存法を満たすため、完成PDFの保存先とファイル名の規則を決めておく。

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