
会社の業務をすべて書き出したあと、次に何をすべきでしょうか。
棚卸しした一覧を上から順に「AI化できるか」で仕分けるやり方は、よく見かけます。そうしたくなる気持ちはわかります。ただ、これだと工程が2つ抜けています。
要らない仕事をAIで速くやっても、要らない仕事のまま終わります。AI化する前に、その仕事をなくせないか。この問いから始める必要があります。
棚卸しとAI化の間にあるもの
本来の順序は、棚卸し、業務の整理、やめる、減らす、まとめる、それでも残る仕事を改善する、そして必要ならAI化や自動化をする、という流れになります。棚卸しとAI化の間には、整理する、やめる、減らす、まとめる、という工程があります。
月に3時間かかっていた資料が30分で作れるようになったとしても、誰も読んでいなければ意味がありません。毎月の報告資料を誰が見ているのか辿ったら、誰も見ていなかったという事例は実際にあります。
成果物を最後に誰が見たか。受け取った人の名前が言えない仕事は、疑う対象になります。
整理するための6つの選択肢

整理すると言っても、すべてをやめられるわけではありません。選択肢は6つあります。やめる、回数を減らす、他の仕事とまとめる、やり方を簡単にする、そのまま残す、AIと自動化を検討する、の6つです。
- やめる:受け取り手がいない仕事
- 減らす:毎週やっているが月1回でも困らない仕事
- まとめる:似た資料を別々の人に出している仕事
- 簡単にする:手順は要るが今のやり方が重い仕事
- 残す:判断や関係者が絡む仕事
AIと自動化は、これら5つを通ったあとに来る6番目の選択肢になります。
これをAIに決めさせるわけにはいきません。AIに「この仕事を廃止してください」と判断させるのではなく、「この仕事、本当に必要ですか?」と人が考えるための材料を作らせます。判断するのは人です。
AIに「そもそも必要か」を聞く
では、業務一覧をAIに渡すと何が返ってくるのでしょうか。従業員200人規模の会社の総務、人事、経理を想定した、10個の業務一覧を用意したとします。毎週の会議資料を作る、各部署からExcelを集める、上司向けに月次報告資料を作る、社内からの定型的な問い合わせに答える、などです。
これをAIに渡すとき、渡し方が結果を左右します。「AI化できるものを教えて」とは聞きません。「この一覧の中で、そもそも必要かどうかを見直す余地がある業務を挙げて、なぜそう思うかを書いてください」と聞きます。
すると、各部署からExcelを集める業務に対して、「そもそも各部署にExcelを作らせる必要があるか。元データから直接集計できるなら、回収そのものをなくせる可能性がある」と返ってきます。
毎週月曜の進捗会議については、「議事録をAIで作ろう」ではなく、「この会議は毎週必要か。報告だけなら非同期にできるかもしれないし、月1回でも成立するかもしれない」という提案になります。
月次報告資料をPowerPointに転記する作業には、「その資料自体を毎月作る必要があるか。ダッシュボードを見るだけで済まないか」と返ります。社内からの定型的な問い合わせには、「なぜ同じ質問が発生しているのかを確認する。申請画面や社内ルールが分かりづらいなら、そちらを直したほうがいい場合がある」と返ってきます。
「AI化できるか」で聞くと、すべてに「できます」と返ってきます。「必要か」で聞くことで、AIの提案はなくす、減らす、見直す方向へ変わります。
AIの提案を現実に寄せる

AIの提案をそのまま鵜呑みにするわけにはいきません。鵜呑みにしないための仕組みが、AIとの往復です。
AIの提案には必ず「判断するために足りない情報はありますか」と返します。すると、AIから質問が返ってきます。
Excel回収の件では、「元データはどのシステムにあるか。手で加工している項目はあるか」と聞かれました。人が「販売管理システムにある。ただ、営業部だけ手で見込みを足している」と答えます。すると案が更新され、「見込み以外は直接集計に切り替え、見込みだけ営業部から受け取る」になりました。
往復することで、案が現実に寄っていきます。出てきた提案は、人が現場の目で見て3つに分類します。
1つ目は「やめられそう」。Excel回収を直接集計に切り替える案は、販売管理システムからデータを出せる会社が多いため、これに当たります。
2つ目は「現場では無理」。週次会議を隔週や非同期にする案は、会議が上司の判断の場になっている会社では、やめた瞬間に判断が止まります。
3つ目は「情報が足りない」。月次PPTをダッシュボードにする案は、社長1人が見るのか、取締役会向けで資料の形が要るのか、確認しないと決められません。
AIの提案はすべてこの3つのどれかに落とします。すべて正しいと扱わず、すべて却下もしません。
「情報が足りない」と分類されたものは、そのまま次のアクションになります。誰が見ているか確認する、情シス(情報システム部門)に聞く、といった行動です。AIが答えを出すのではなく、確認すべきことを明らかにします。これが壁打ち相手としての使い方です。
手元に残す「業務見直しリスト」
この往復の結果、手元には業務見直しリストが残ります。棚卸しシートを一段進めた表で、列は「業務」「現状」「見直し案」「確認すること」「次のアクション」の5つになります。
週次会議であれば、現状は「毎週60分」、見直し案は「隔週や非同期化を検討」、確認することは「意思決定が毎週必要か」、次のアクションは「1か月試行」となります。
Excel集計なら、現状は「各部署から回収」、見直し案は「元データから直接集計」、確認することは「データ取得の可否」、次のアクションは「情シスに確認」です。
棚卸しシートが「今どうなっているか」を書く表だったのに対し、このリストは「次に誰が何をするか」を書く表になります。
この表ができて、初めてAI化の話に進みます。このリストで「残す」に落ちた仕事の中で、定型で量が多いもの。それがようやくAIや自動化の候補になります。
リストは棚卸しを仕切った人がそのまま持ち、月1回「確認すること」の欄が埋まったかだけを見ます。埋まったら実行するか決めます。この運用だけでリストは機能し続けます。
まとめ
AI導入は、今ある仕事をすべてAIにやらせることではありません。AIを使って、まず仕事そのものを整理します。AI化する前に、その仕事をなくせないかを考えます。
- 棚卸しの次はAI化ではなく、整理です。6つの選択肢を通ってから、最後にAI化を考えます。
- AIには「AI化できるか」ではなく「そもそも必要か」を聞きます。提案は「やめられそう」「現場では無理」「情報が足りない」の3つに落とします。
- 手元に残すのは「業務見直しリスト」です。最後の列が人の動きになっていれば正しく機能します。
本記事の元になった棚卸しシートは、ホワイトペーパー「業務棚卸しシート」として配布されています。また、9月15日(火)のウェビナーでは、AIを使った業務可視化を1日でやる手順の実演が予定されています。
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