社内資料をCopilotに渡していい。ただし権限が緩い会社ほど危ない

社内の数字や機密資料をAIに入力して、本当に大丈夫なのだろうか。 AIの活用が進むにつれ、経営者やバックオフィス実務者からこのような不安の声を聞くことが増えた。

結論から言えば、法人向けのCopilotであれば社内資料を渡してよい。 マイクロソフトは公式に、入力データをAIの学習には使わないと明記している。 ただし、1つだけ本当に注意すべきことがある。 安全に利用するための条件は、ツールの仕様ではなく、社内の権限設定の側にある。

Copilotに社内資料を読ませる3つの方法

そもそも、社内の資料をどのようにCopilotへ読ませるのだろうか。 大きく分けて、手元のファイルを添付する、社内のファイルを名指しで参照させる、Webの情報を使わせる、という3つの方法がある。

  • 添付する:手元のファイルをそのまま付けて質問する。取引先からもらった見積書など、1回きりの資料をその場で読ませたい場面に向いている。
  • 名指しで参照させる:入力欄でスラッシュ(/)を打ち、SharePointやOneDriveにあるファイルを候補から選ぶ。常に最新のファイルを見てくれるため、経理の月次処理など、定期的に更新される資料に向いている。
  • Webの情報を使わせる:制度の改正内容など、社内にない情報を調べるときに使う。

社内の資料とWebのどちらを見て答えているのかを、使う側が意識しておく必要がある。 情報の出所が混ざると、回答の根拠を確認できなくなってしまうからだ。

入力したデータは学習に使われるのか

社内資料をCopilotに渡していい。ただし権限が緩い会社ほど危ないの解説スライド

経営者から最もよく聞かれるのが、社内の数字をAIに入れて、それが学習に使われてしまわないかという懸念である。 マイクロソフトの公式ドキュメントには、「プロンプト、応答、Copilotがアクセスするデータは、Microsoftの基盤となるAIモデルのトレーニングには使用されない」と明記されている。 これはエンタープライズデータ保護(EDP)と呼ばれる仕組みの中身である。

さらに、「Copilotに入力した内容と、Copilotによって生成される内容は、組織の境界内に留まります。他の顧客のためにモデルを改善またはトレーニングするためには使用されません」と続く。 機密性の高い提案書を作成したり、社内の財務レビューを要約したりしても、そのコンテンツはユーザーの環境内にとどまる。

個人アカウントの無料AIで社内資料を扱うのと、法人契約のCopilotで扱うのは、契約上まったく別の話である。 閉じた会議室のホワイトボードに書くのか、外の掲示板に貼り出すのかくらい、置かれている条件が異なる。

見えないファイルはCopilotにも見えない

もう一つの心配は、他の部署の資料まで見えてしまうのではないかという点である。 たとえば、給与のファイルを営業担当者がCopilot経由で読めてしまったら大問題になる。 ここについても、公式ドキュメントは明快である。

「Copilotは、現在のユーザーがアクセス許可を持っているコンテンツのみを使用して表示します。アクセスを拡大したり、制限された情報を公開したりすることはありません」と記載されている。 そして、最も短い一文がこれだ。 「ファイルを開けない場合、Copilotもそのファイルを使用できません」

つまり、いま自分が開けないものは、Copilotに聞いても出てこない。 Copilotは新しい権限を持っているわけではない。 あくまでその人の権限で動くツールであり、営業担当者が使えば営業が見られる範囲、経理担当者が使えば経理の範囲になる。 加えて、「データは他の組織から論理的に分離され、通信は暗号化されます」とも書かれており、他社のデータと混ざることもない。

秘密度ラベルは生成物にも引き継がれる

社内資料をCopilotに渡していい。ただし権限が緩い会社ほど危ないの解説スライド

ファイルには、社外秘や関係者限りといった機密度の目印を付けることができる。 これを**秘密度ラベル**と呼び、Microsoft Purview(データ保護やコンプライアンス管理を行う製品)で管理する。 このラベルとCopilotには、2つの関係がある。

1つ目は、ラベルによる制限がそのまま及ぶことだ。 公式には「そのラベルがアクセスを制限したり、暗号化を適用したりする場合は、同じ制限が適用されます。適切なアクセス許可を持たないユーザーは、Copilotを使用してそのコンテンツを要約または参照することはできません」とある。 要約すらできないという徹底ぶりだ。

2つ目がさらに重要で、作成したコンテンツにもラベルが引き継がれる。 「Copilotがラベル付けされたソースに基づいて新しいコンテンツを生成するときは、最も優先度の高い秘密度ラベルが引き継がれます」と公式は説明している。 機密ファイルを使用して下書きを作成した場合、新しいコンテンツも機密ファイルとして扱われる。 これにより、機密資料から作った要約が、うっかり普通のファイルとして出回る事故を防ぐことができる。 マル秘の判子が押された書類をコピーしたら、コピーにも同じ扱いが必要になる感覚に近い。

権限が緩い会社ほど危ない

ここまで確認すると、かなり安心して使えそうに思える。 しかし、1つだけ注意点がある。 マイクロソフトの資料には直接書かれていないが、実務上極めて重要な事実だ。 先ほど、「ファイルを開けない場合、Copilotもそのファイルを使用できません」と確認した。 これは裏を返すと、開けてしまうファイルは、Copilotも使えるということである。

もともと権限の設定が緩い会社だと、どうなるだろうか。 共有フォルダが全社員に開放されていて、誰も見ていないから問題になっていなかった。 そういう会社にCopilotが入ると、見ようと思えば見られた資料に、質問するだけで届いてしまう。 数年前に作ったフォルダの権限が、そのまま誰も触らずに残っているという症状は珍しくないだろう。

Copilotが問題を作ったのではない。 もともとあった問題が、AIの導入によって可視化されただけである。 これはツールの問題ではなく、権限の棚卸しの問題だ。 Copilotを入れる前に、共有フォルダの権限を一度見直す必要がある。 すべてを整理してから導入するのでは永遠に始まらないため、部署単位で権限を確認し、そこから使い始めるのが現実的である。

権限の棚卸しを誰が担うのか

権限を見直した方がよいのは確かだ。 ただ、実務で直面するのは、それを誰がやるのかという問いである。 情報システム部がない中小企業では、経理や総務の担当者が兼務していることが多い。 AIを入れたいけれど、手が空いている人がいない。 ツールを契約するところまでは進むが、その先で止まってしまう。

そこで、新しい職能が生まれつつある。 外から入って業務を聞き取り、権限やデータの状態を確認し、小さく自動化して運用まで定着させる。 これが、AIエージェントマネージャーと呼ばれ始めている役割である。 Copilotを使う側ではなく、使える状態にする側に回る仕事だ。 これはゼロから始める仕事ではない。 要件を聞き取り、関係者を調整し、進行を管理するという、IT業界でプロジェクトマネージャーやコンサルタントが担ってきた経験がそのまま価値になる。

逆に言えば、バックオフィスの実務を知らなければ務まらない。 仕訳の判断基準や、入金消込の例外パターンを理解している必要がある。 現場の業務を聞き取って構造化し、既存のツールとSaaSを組み合わせて小さなDXを実装する。 権限の棚卸しも、この「聞き取って構造化する」工程の一部に含まれる。 現在提供されている「AI駆動バックオフィス実戦プログラム」でも、1週目に経理担当へのヒアリングから仕訳の判断基準を言葉にする訓練を行っている。 ツールの使い方ではなく、業務の側から設計できる人材が求められている。

まとめ

法人向けのCopilotを安全に活用するための条件は、以下の3点に集約される。

  • 法人向けのCopilotでは、入力も出力も学習には使われない。
  • Copilotは新しい権限を持たない。自分が開けないファイルはAIにも見えず、機密資料から作ったものには機密ラベルが引き継がれる。
  • もともと権限が緩い会社ほど注意が必要である。AI導入を機に、共有フォルダの権限を棚卸しすることが前提となる。

バックオフィスのBPO・AI内製化のご相談

「どのツールを入れるべきか」の棚卸し・診断から、現場で本当に使われる運用設計まで。経理・労務・採用・営業事務のBPO、AIガバナンス整備までご支援します。

資料を見る