
飲食店向けサービスのダイニー(dinii)が、AIエージェントによる本部業務の自動化を進めています。
公式の導入事例には、驚くべき数字が並んでいます。入金チェックの工数を約90%削減する見込み。採用業務は約40%削減。
飲食業のシステムの話だと感じてしまうかもしれません。しかし、入金の突合(複数のデータを突き合わせて確認する作業)や面接の日程調整は、まぎれもなく経理と人事の仕事です。
業種の話に見えて、中身はバックオフィスの話なのです。
AIが「答える」段階から「働く」段階へ移る境目と、それを自社の業務に持ち込むための条件を考えます。
飲食のシステムは、いま何が変わろうとしているのか
比較の軸が「機能」から「AIの操作」へ
これまでの飲食店のデジタル化は、レジをクラウドにし、モバイルオーダーを入れ、予約台帳や勤怠管理(従業員の出退勤を記録・管理する業務)をデジタルにするというものでした。
いわゆる飲食DXです。
確かに便利にはなります。しかし、これらはすべて人が操作するためのシステムでした。
売上を見るのも人、数字を分析するのも人、シフトを作るのも人、価格を変えるのも人です。
システムが増えても、最後に仕事をするのは人という形は変わっていません。仕事の量そのものは減っていないのです。
いま起きているのは、その操作をAIがやるという変化です。
だから、「どのレジを使うか」という比較の議論自体が、少しずつ古くなっていく可能性があります。
システムの比較軸が、機能の多さから「AIが操作できるか」へ移っていくのです。
AIの3つの世代は何が違うのか

答えるAIから、働くAIへ
この変化は、乗り物に例えると分かりやすいでしょう。
第1世代は馬です。従来のレジや予約管理にあたります。人が歩くよりはるかに速いですが、手綱を握って方向を決め、餌をやって世話をしなければなりません。結局、人がかなり働きます。導入したのに手間が増えた、という声にも身に覚えがあるはずです。
第2世代はカーナビの付いた車です。「今月は人件費率(売上に対する人件費の割合)が高いです」「この店舗の売上が落ちています」とシステムのほうから教えてくれます。かなり便利です。
ただ、300メートル先を右折してくださいと言われても、ハンドルを切るのは自分です。分析まではしてくれますが、実行するのは人なのです。
そして第3世代が、完全自動運転です。ここからがAIエージェントと呼ばれます。
人がやるのは、「来月600万円売りたい」「原価率を30%以内にしたい」という目的地を決めることだけです。
するとAIがデータを集め、問題を特定し、改善案を考え、システムを操作して実行まで進めます。経営者は行き先だけ決める。かなり極端な言い方ですが、方向としては間違っていません。
実行するかどうかが境目になる
たとえばChatGPTに「先月の人件費率を教えて」と聞くと、「32%です」と返ってきます。
便利だとは思います。ただ、そこで終わります。聞いたことに答えて終わりです。
AIエージェントになると、そこから先があります。
「目標の30%を超えています。原因は火曜と水曜の17時から19時に人が多すぎるからです。来月からこの時間帯を1人減らせば30%前後まで戻せます」と分析します。
そして最後に、「来月のシフトを修正しますか」と尋ねてきます。
ここで承認すると、実際にシフトを変更するのです。
答えるAIと、働くAI。この違いは、実行するかどうかにあります。
そして実務で大事なのは、承認を挟んでいるところです。勝手にやるのではなく、人が「はい」と言ってから動く。そこがないと、怖くて任せられません。
すでに動いている事例では何がどれだけ減ったのか
入金チェックと採用業務の削減
実際に動いている事例を見ると、その影響の大きさがわかります。
約120店舗を展開している企業の公式導入事例では、入金チェックの工数を約90%削減する見込みだとされています。採用業務も約40%削減されます。
そして、いまの管理体制のまま250店舗まで対応できると試算されているのです。人を増やさずに倍まで伸ばせるという、バックオフィスにとって理想的な数字です。
中身を見ると、複数の求人媒体から来る応募を一元化し、応募者への返信、面接の日程調整、カレンダーを見ながらの調整までAIが処理しています。
別の企業では、レジのデータと決済情報を自動で突き合わせて、毎朝やっていた入金確認の大部分をAIに任せる仕組みを作っています。
入金の突合は、まさに経理の仕事です。
12店舗を展開している企業の事例では、数十個のチャットグループに情報が散らばり、バックオフィス担当1人に業務が集中していたという課題が紹介されています。
多店舗に限らず、情報が散らばって詳しい人1人にすべて集まるという症状は珍しくないでしょう。
さらに経営管理の機能として、売上・原価・人件費を集めて利益の状況を見えるようにしたり、過去のレジのデータから売上を予測したりというところまで提供されています。
同じことはバックオフィスでも成り立つのか

中小企業ほど効果が大きい理由
ここまで飲食の話を見てきましたが、一般の会社のバックオフィスでも同じことは言えます。
理由は二つあります。
一つ目は、人数の少ない会社ほど効果が大きいということです。
100店舗ある会社なら人事部も経理部もあるでしょう。しかし、1店舗から5店舗くらいの会社では、だいたい社長がすべてやっています。
応募者に返信し、シフトを見て、原価を見て、請求書を見る。店にも立ちます。
社員を何人も採用できない会社ほど、AIエージェントの影響が大きくなります。これは飲食かどうかに関係ありません。
二つ目は、現場の全員が使える形になっているかということです。
飲食のデジタル化でありがちなのが、本部しか使っていない、正社員しかアカウントを持っていないという状態です。
いちばん人数の多い層であるアルバイトの方々が使えなければ、情報は結局チャットに戻ってしまいます。導入したのに使われない、の典型です。
一般の会社で言えば、現場の担当者がアカウントを持っていないのと同じことです。
実行を任せるための2つの条件
ただし、バックオフィスで実行まで任せるときには条件が付きます。
飲食の販促なら試して直せるかもしれません。しかし、支払いや給与は取り返しがつきにくいものです。間違えたときに決算や給与に響くからです。
だからこそ、承認を挟むことと、何を見て判断したかの記録を残すこと。
この二つは外せません。実行できるようになるほど、その二つが要るのです。
事例から読み取れるのは、人を減らす話ではないということです。
面倒な作業をAIに任せて、人にしかできない仕事に戻る。この順番で考えるべきでしょう。
まとめ
本記事の持ち帰りは以下の通りです。
- これまでのシステムは人が操作するためのものでしたが、いま起きているのはその操作をAIがやるという変化です。
- 答えるAIと働くAIは、実行するかどうかで分かれます。分析して改善案を出し、承認を取ってシステムを操作するのがAIエージェントです。
- 同じ性質の仕事はバックオフィスにもあります。ただし、支払いや給与など取り返しがつきにくい業務では、承認を挟むことと判断の記録を残すことが必須条件になります。
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