
「AIに仕事を奪われる」と感じることがあるだろう。
しかし、現実に起きている変化は少し違うのかもしれない。
AIを使う人ではなく、AIを回す人。
そんな新しい職種が、いま海外で生まれ始めている。
起業家のグレッグ・アイゼンバーグ(Greg Isenberg)氏によれば、それは「マーケティングエンジニア」と呼ばれている。
上位の人は年収1億円に達するという見立てすらある。
なぜそこまで高く評価されるのか。
そして、この波は集客部門にとどまらず、バックオフィスにも確実に波及する。
彼らが何を作っているのかを見ると、その理由がわかる。
現場に降りるエンジニアたち
前提として、**フォワードデプロイドエンジニア**(FDE)という職種がある。
日本語に直せば、前線に配置されたエンジニアである。
彼らは自社のオフィスで製品を作って売るのではない。
顧客の会社の中に入り込み、隣に座って、その会社の業務に合わせた専用のソフトを作る。
米国のパランティア(Palantir)という企業が有名にした働き方だ。
ツールの使い方を教える導入支援とは決定的に違う。
実際に動く仕組みを作って、現場に置いてくる。
製品を売るだけでは、顧客の業務は変わらない。
AIを入れても、その会社の業務の形に合わせなければ動かない。
だからこそ、作る人が現場に降りていく必要があった。
手を動かすのがAIに変わった

このFDEと同じことを、集客の領域でやる人が出てきた。
それがマーケティングエンジニアである。
彼らの立ち位置を理解するには、マーケターの価値がどう移り変わってきたかを振り返るとわかりやすい。
新聞やラジオの時代は、物語で人の心を動かせる人が最も強かった。
検索エンジンやリスティング広告が出現すると、新しい経路をいち早く押さえるデジタルマーケターが価値を持った。
その後、登録から継続までの流れを設計し、数字で改善を回すグロースハッカーが現れた。
段階が上がるたびに、担当範囲が広がっている。
1つの手法が得意な人から、集客の仕組み全体を持つ人へと移ってきた。
そして今、仕組みそのものを動かすAIエージェントを作る人が求められている。
手を動かすのが人ではなく、AIになったのだ。
人は作業から承認へ回る
では、彼らは実際にどんなAIエージェントを作っているのか。
アイゼンバーグ氏の投稿では、4つの例が挙げられている。
顧客の言葉を集める
1つ目は、顧客の言葉を集めるエージェントである。
商談の録音記録、問い合わせ履歴、レビューサイトの評価。
これらを毎週読みに行き、顧客が実際に使っている言い回しを抜き出す。
そして、出てきた回数の多い順に並べたメモを置く。
買いどきを見つける
2つ目は、買いどきを見つけるエージェントだ。
自社が売りたい相手の職種で求人が出た。
資金調達を発表した。
競合がレビューで酷評された。
こうした兆候を監視し、その理由に紐づいた営業メールの下書きまで用意する。
検索の穴を埋める
3つ目は、検索の穴を埋めるエージェントである。
自社が取れていない検索語を調べ、上位3本の記事を読む。
そこへ経営者本人の主張を入れ込み、タイトルや内部リンクまで付ける。
書いてすぐに出すのではなく、承認待ちの状態で置いておく。
広告を試し続ける
4つ目は、広告を試し続けるエージェントだ。
1つの売り文句から、3つの切り口で100本の広告案を作り、配信まで自動で行う。
クリック率が1%を下回ったものは自分で止める。
残った勝ち筋にだけ予算が流れ続ける。
作業から確認への移行
100本の広告を人が作り続けるのは無理だろう。
これら4つのエージェントには、共通していることが2つある。
毎週、材料を読み直して賢くなること。
そして、人がやるのは承認だけになっていることだ。
人は作業する側から、確認する側へ回っている。
なぜ年収1億円と言われるのか

年収1億円というのはアイゼンバーグ氏の見立てであり、統計ではない。
ただ、なぜそう言えるのかという理屈には納得できるものがある。
従来なら、顧客調査、営業メール、記事作成、広告運用は、それぞれ別の担当者がいた。
マーケティングエンジニアは、その全体を1人で持つ。
手を動かすのはエージェントであるため、人を増やさずに成果が伸びる。
人件費の何倍もの成果が出るなら、報酬もそれに応じて上がる。
重要なのは、この人が技術者ではないということだ。
業務を分かっていて、AIに何を作らせるかを決められる人である。
だからこそ、従来のマーケターがそのまま移行できる。
AIに仕事を奪われるのとは反対側にいる職種である。
バックオフィスにも同じ波が来る
ここまで集客の話を見てきた。
同じことが、バックオフィスでも起きるのだろうか。
結論から言えば、同じ形で来る。
マーケティングでエージェント化できた仕事の性質が、バックオフィスにもそのままあるからだ。
毎週決まった材料を読む。
書式が決まっている。
判断基準が言葉にできる。
請求書の受け取り、入金の消し込み、労務の手続き。
どれもこの性質に当てはまる。
ただし、1つだけ決定的な違いがある。
集客の施策は、間違えても広告費が減るだけで済む。
バックオフィスは、間違えると決算や給与に直接響く。
同じようには回せない。
誰が承認したのか、何を見て判断したのか。
その記録が残る形でなければ、バックオフィスの実務には乗らない。
逆に言えば、その条件を満たしたうえでエージェントを回せる人が、これから必要になる。
マーケティングエンジニアのバックオフィス版である。
まとめ
「AIに仕事を奪われるのか」という問いの立て方は、そもそもずれていたのかもしれない。
奪われる側にいるのか、回す側に立つのか。
その分かれ道が来ている。
そしてこれは、技術者になるという話ではない。
業務を分かっている人ほど有利になる。
- 顧客の中に入り、業務に合わせて専用の仕組みを作る職種が生まれている。
- AIエージェントは毎週材料を読み直して賢くなり、人がやるのは承認だけになる。
- バックオフィスにも同じ性質の仕事があるが、承認と記録が残る形に設計する必要がある。
- 業務を分かっている実務担当者こそが、AIを回す側に立つことができる。
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