
バックオフィスをAIに置き換えると、どの仕事の担当者が減り、誰が残るのでしょうか。
SHIFTの2026年8月期通期決算資料には、その答えとなる人数の表が載っています。同社は自社のバックオフィス業務をAIに置き換え、外部からの派遣スタッフをゼロにしました。しかし、すべての部門で人が減ったわけではありません。
決算資料の数字を追うと、AIが引き受ける仕事と、人が担い続ける仕事の境界線が見えてきます。
利益率を押し上げるAIの仕事
SHIFTの1年間の売上は1,616億円で、前の年より25%増えました。本業のもうけを示す**調整後営業利益**(会社を買ったときに毎年かかる会計上の費用などを除いた数字)も203億円となり、会社の目標を上回っています。出資している会社の損失を約39億円取り込んだため、会計上の最終利益は前の年より17%減って74億円となりました。それでも、年の後半にバックオフィスの費用を絞ったことが数字に表れています。最後の3か月の調整後営業利益は71億円となり、前の年の同じ時期より69%増えました。
業績を牽引しているのは、AIを使った仕事です。売上のうちAIを使った仕事の割合は、1年の最初の3か月は2.7%でしたが、最後の3か月には28.4%まで増えました。わずか1年で10倍になり、売上の3割近くに達しています。
AIを使った仕事は、手元に残る利益の割合も大きくなります。売上から原価を引いた残りの割合である粗利率を見ると、AIを使わない従来の仕事が31.9%であるのに対し、人がAIを使って速く仕事をする「With AI」は42.3%、最初からAIが仕事をする「Native AI」は54.7%に達しています。同じ金額の売上でも、AIが業務そのものを引き受けるほど、手元に残るお金が増える仕組みです。
最後の3か月は粗利率が上向いており、エンジニアの手が空いている時間が減ったことと、AIの仕事が増えたことの2つが理由だと説明されています。ただ、Native AIの売上はまだごくわずかです。AIが業務そのものを引き受ける形は、これからが本番と言えます。
減った仕事と増えた仕事

では、社内のバックオフィスでは何が起きたのでしょうか。本社の販管部門は期初で987人おり、売上を生む営業、会社の仕組みを支えるインフラ、毎日の事務を回すオペレーションの3つに分かれています。このうち、請求書の発行や入社の手続きのように、決まった手順を毎日くり返す**オペレーション**を担当する人が、284人から171人に減りました。減った113人分は派遣と外部のパートナーが中心であり、単体の派遣スタッフは0人になっています。正社員を辞めさせたのではなく、外から来てもらっていた手をAIに置き換えた形です。
仕事ごとの内訳を見ると、減り方の偏りがわかります。一番大きいのは採用で、137人から51人に減りました。毎年たくさんのエンジニアを採用するため、応募書類を読んで面談の日程を組む人が大勢いた持ち場です。応募書類の選考や面談をAIがする仕組みを社内で作ったことで、86人分が減りました。ほかにも、見積や請求、契約書の仕事をAIに任せた営業事務が42人から26人へ減っています。給与計算や社会保険の手続きをAIに移した労務も、19人から12人へ減りました。
量が多くて手順が決まっている仕事ほど、AIに置き換えたときの減り方が大きくなります。工場で流れ作業が機械に置き換わったときと同じで、同じ動きをくり返す持ち場から先に変わっていくのです。
これだけ人が減っているなら、経理もさぞ減ったに違いないと思うかもしれません。ところが、決算資料の表を見ると、経理・財務は9人から11人に増えています。経理処理や経費精算のAI化は進んでいるはずなのに、人は増えたのです。人事の企画や法務、会社を買ったあとの統合を担当する部門も増えています。決算資料にも、人材が必要な領域も増えると書かれています。
減ったのは同じ手順を繰り返す仕事であり、増えたのは判断と企画の仕事でした。作業は減っても、判断や企画をする人は要るということです。
浮いた時間と人を売上へ回す
AIの導入は、人数の削減だけでなく、時間の使い方も変えています。人事評価にAIを入れたことで、役職者が評価にかける時間が1,477時間から990時間へ、33%減りました。社内のチャットや作った資料をAIが読んで、上司に見えていなかった働きぶりをまとめる仕組みです。評価のあとの社員アンケートでも、10項目すべてで点が上がったといいます。
浮いた人と時間は、売上を生む側へ回されます。営業の人数を120人増やす計画が出ています。さらに、オペレーションの人数を減らして、次の1年でもう100人分をAIのサービスに移す目標も掲げられています。売上に占める販管費の割合は、会社を買った影響で次の1年は下がりにくいものの、その先は毎年1ポイントずつ下げられると見込んでいます。
グループ会社のバックオフィスにも700人ほどおり、本社で作ったAIを持ち込んで仕事を1か所に集め、効率を上げる計画です。M&Aの動きもあり、東京ガスと150億円のファンドを作って会社を買っていく方針も示されています。
自社の実績を売り文句にする

社内で人数を減らした仕組みは、すでに外へ売り出されています。AIを使ってよその会社のバックオフィス業務を引き受けるサービスを、同社は「AI BPaaS」と呼んでいます。この部門の売上は51億円で、前の年より35%増えました。決算資料には、販管要員113名分の業務圧縮を実証したと書かれています。自社でやったことが、そのまま売り文句になっているのです。
引き受けている仕事の例も、社内で減らしたのと同じ形をしています。パソコンの使い方や社内の手続きについて社員からの質問を受け付ける社内のヘルプデスクで、年1,920時間を減らしました。紙の申請をAIで読み取って電子にする仕事では、年8,800時間を減らしています。役所の大量の問い合わせでは、電話の35%をAIが受けています。どれも、量が多くて手順が決まっている仕事です。自分の会社でどれだけ人数が減ったかを見せられるため、頼む側も効果を想像しやすくなります。
外に頼むときの相手も変わってきます。これまでは、人の生産性を上げるために何人つけるかが問われていました。これからは、その仕事をAIでどこまで引き受けられるかで選ぶ時代になります。決算資料には、人の生産性を上げるモデルから、AIが業務そのものを提供するモデルへ移行すると書かれています。次の1年の目標として、売上1,900億円、調整後営業利益250億円が約束されており、AIがうまく伸びれば売上2,000億円を狙うといいます。
ただし、外に出すにもAIに任せるにも、前提となる作業があります。どの仕事を誰が何時間やっているのかを、数え上げることです。
まとめ
SHIFTの決算資料が示すのは、AIによる業務の置き換えがすでに実益を生んでいるという事実です。自社の仕事を数え上げ、AIに任せる仕事と人が残る仕事を分けることが、その第一歩となります。
- SHIFTの1年は売上1,616億円、調整後営業利益203億円で目標を上回りました。会計上の最終利益は一度きりの損失で減っています。
- AIを使った仕事は売上の28.4%まで増え、粗利率は従来の仕事より10ポイント以上高くなっています。
- 社内のバックオフィスは113人分をAIに置き換え、採用は86人分減りましたが、経理・財務は2人増えました。減ったのは繰り返しの仕事で、増えたのは判断と企画の仕事です。
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