
「AIでバックオフィスを効率化する」という言葉はよく耳にするだろう。
しかし、それを上場企業が自社で大規模に実践し、決算の数字として証明した例はまだ少ないのではないか。
2026年7月15日に公開された、株式会社SHIFTの2026年8月期第3四半期決算説明資料が、その答えを出した。
同社は、自社のバックオフィスを半年で110人分AI化し、AI関連の売上を3か月で3.1倍に伸ばしている。
テスト最大手である同社は、どのようにしてAIで業務そのものを引き受ける会社へと変貌しつつあるのか。決算資料の数字から、その現在地を追う。
業績の全体像と稼働率低下の理由
好調な数字が並ぶのかと思いきや、この決算には上方修正と下方修正が同居している。
一過性の損失と通期売上の上方修正
通期の売上予想は1,500億円から1,600億円へ上方修正された。第3四半期の売上は438億円であり、M&Aを除いても前年同期比で20%を超える成長を見せている。調整後営業利益も200億円の計画を達成する見込みだ。さらに今期から初の配当を開始し、配当性向10%、1株4.1円での株主還元が始まる。
一方で、調整後最終利益は135億円から90億円へ下方修正されている。これは出資先の株式減損など、約39億円の持分法投資損失という一過性の要因によるものだ。
目先の稼働率を下げて将来に張る
本業側にも注意点がある。稼働率が90.1%と、前年から2.5ポイント低下した。エンジニアの手が空き気味になったということだ。
受注が減ったのだろうか。資料によれば、これは営業の軸足を、目先の案件からAIや大型の長期案件に意図的にシフトした副作用である。実際、将来の売上パイプラインは前年の1.5倍となる754億円に積み上がっている。目先の稼働を多少犠牲にしてでも、来期以降の大きな仕事を仕込んでいる状態だ。
AIが利益を牽引する商品に変わる

その張った先が、すでに数字になり始めている。
3か月で3.1倍に伸びたAI売上
AI関連の売上が、前四半期の25億円から79億円へ、わずか3か月で3.1倍に急増した。全売上に占める割合も18%に達している。
同社はAI売上を、人の仕事をAIで効率化した「With AI」と、最初からAIが業務そのものを担う「Native AI」の2つに分けて開示している。
従来型を超える利益率
注目すべきはその利益率である。従来型サービスの売上総利益率が32.5%であるのに対し、With AIは43.0%、Native AIは53.7%に達する。AIはもはや実験の段階を越え、一番儲かる商品になりつつある。
将来のパイプラインを見ても、Native AIの案件が前年の102.8倍という桁違いの伸びで積み上がっている。テスト、開発、コンサルティングという全サービスラインで、AI案件の受注が同時に立ち上がっている。
自社バックオフィスを半年で110人分AI化する
では、そのAIの力は自社の内部でどう使われているのか。
営業事務と経理の定型業務を置き換える
同社は、自社のバックオフィスを半年で110人分AI化した。派遣や外部委託で回していた定型業務をAIに置き換え、単体の派遣スタッフは8月末に0人になる予定だという。対象となったのは、シェアード化されている702人規模の業務である。
部門別の内訳を見ると、営業事務が137人から52人へ、85人分削減された。見積、請求、契約書といった業務をAIに置き換えている。経理も24人から16人へ8人分削減され、経理処理や経費精算がAI化された。採用部門では、AI書類選考とAI面談を搭載した採用管理システムを内製し、人事評価にもAI評価やAIメンターを導入している。
人を減らすのではなくプロフィット側へ動かす
これは単なる人員削減ではない。定型業務をAIとツールに任せ、正社員はより価値の高い判断業務へ配置転換している。実際、人事や企画部門の人数は増えている。AIで人を減らすのではなく、AIで人を利益を生む側へ動かしているのだ。
この効果は販管費にも表れており、調整後販管費比率は前年から2.5ポイント改善している。ここまで具体的にバックオフィスのAI化を開示している上場企業は珍しい。
社内実績をそのまま外販する新事業

この社内実績は、単なるコスト削減で終わらない。
40兆円のオペレーション市場への参入
同社は、自社で110人分を削減したノウハウをそのまま商品にする。AIで業務そのものを提供するサービスである**AI BPaaS**を、8月末から外部に提供開始する。まずは営業事務と経理の領域から着手する。
彼らは、ITの投資市場16兆円の先にある、業務そのものの市場を40兆円と見立てている。データやAIを持つ会社が、業務そのものを引き受けに来る流れが加速している。
伴走するエンジニアと4,400体のAIエージェント
提供の仕組みも特徴的だ。顧客の現場に入り込み、定着まで伴走するエンジニアを採用するモデルである。すでにこの領域で18社、約1億円の売上が立っている。
社内では「天才君」と呼ばれるAIエージェントが4,400体稼働しており、この基盤が外販を支えている。
人と組織の再配置
業務がAIに置き換わる中で、採用はどう変わるのか。
採用計画の張り替え
この決算では、採用計画を440人分抑制している。止めたのは、未経験のエンジニアや、AIを使わないテスト人材、オペレーション人材の採用である。
そのかわり、採用の軸をハイスキル人材に張り替えた。AIモダナイゼーションの戦略人材や、「AI BPaaS」を推進する人材、事業部長クラスの採用に注力している。
AIの上流に立つ人材の価値
結果として、採用者の平均年収は869万円まで上昇している。営業組織も役割別に再編し、300人規模へ増員していく計画だ。
AIにできる仕事の枠は閉じ、AIを使いこなす人とAIを売れる人の枠を開けた形である。派遣や外部委託で回している定型業務からAIとツールに置き換わっていくという順番は、企業の規模を問わず共通する。
まとめ
SHIFTの決算は、AIを活用して業務そのものを提供する会社への転換を、具体的な数字で示している。自社のバックオフィスをAIで整え、そのノウハウを外販するという戦略は、多くの企業にとって一つの到達点になる。
- 通期売上を1,600億円へ上方修正し、目先の稼働率を下げてでも将来のAI案件や大型案件に営業をシフトしている。
- AI関連売上が3か月で3.1倍に急増し、従来型サービスを大きく超える利益率を叩き出している。
- 自社バックオフィスの定型業務を半年で110人分AI化し、正社員をより価値の高い業務へ配置転換した。
- 社内のAI化ノウハウを「AI BPaaS」として商品化し、40兆円のオペレーション市場へ参入する。
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