
「AIを使っている」という言葉が指す状態は、企業によって天と地ほど違います。
ある会社では文章の推敲を頼む程度であり、別の会社では業務の大部分が自動で回っています。
客観的な物差しがないと、経営者はどこまで投資してよいか判断できません。
現場の担当者も、どこまで仕組み化すれば評価されるのかが見えず、ゴールのないマラソンを走ることになります。
2026年6月に米メディアEvery(エブリー)のMike Taylor(マイク・テイラー)氏が公開した「The Eight Levels of AI Adoption(AI導入の8段階)」は、まさにこの現在地を測るための枠組みです。
この指標を日本の中小企業のバックオフィス、特に経理業務を例に読み解き、AIをどう導入していくべきかを考えます。
AIにどこまで任せるか
この枠組みの特徴は、人間の技量ではなく「AIへの任せ方の深さ」でレベルを分けたことにあります。
前半の4段階は、人がAIを道具として使う領域です。
レベル1〜2:相談相手と副操縦士
レベル1は**チャットボット**です。
ChatGPT(チャットジーピーティー)やClaude(クロード)などに疑問を投げかけ、答えをもらいます。
経理であれば、勘定科目の相談や、取引先への支払い延期のお願いメールを下書きしてもらう使い方がこれに当たります。
顧問税理士に聞く前の壁打ち相手として十分に役立ちます。
ただし、答えの確認は人間が引き受けなければなりません。
レベル2は**コパイロット**(副操縦士)と呼ばれます。
AIが作業ファイルやシステムの中に入ってきます。
表計算ソフトの中で関数を組んでもらったり、会計ソフトの中で仕訳の提案を受けたりします。
画面を行き来する手間が消え、作業の現場にAIが同席するようになります。
世の中の「AI活用」の大半は、実はこのレベル1と2に集中しています。
レベル3〜4:実行の委譲と承認の放棄
ここから、AIは答える存在から働く存在に変わります。
レベル3は**エージェント**です。
目的を伝えると、AIが自分で手順を考えて順番に実行します。
経費精算の明細を規定と照らし合わせ、「この3件が上限を超過しています。差し戻してよいですか」と人間に承認を求めてきます。
実行はAIが担い、判断のハンコは人間が押す分業です。
レベル4の**オートパイロット**では、人間はそのハンコを手放します。
AIが最後まで自走し、人間は事後に結果をレビューするだけになります。
経理でそこまで任せてよいのだろうか。
そうためらうかもしれません。
だからこそ、どの業務をレベル4に置くかの選球眼が問われます。
入金消込(入金データと請求データの突き合わせ)のようにルールが明確で、間違えても後から検証して戻せる定型業務はレベル4に向いています。
逆に、決算の最終数値や税務判断のように失敗のダメージが大きいものは、レベル3で止めるべきです。
個人の道具から会社の仕組みへ

レベル4と5の間には、大きな川が流れています。
ここから先は、個人の使い方の話ではなく、会社の仕組みの話になります。
レベル5〜6:ラインの構築と自律稼働
レベル5は**ワークフロー**です。
AIの出力のムラをなくすため、手順を製造ラインのように組み上げます。
銀行データを取り込み、仕訳のドラフトを作り、規定でチェックしてレポートにまとめます。
この一連の流れにAIを組み込み、データが自動で流れるように設計します。
人が毎回指示を入力するのではなく、決められた経路を処理が進んでいきます。
レベル6の**アシスタント**になると、AIは人間の開始指示すら待たなくなります。
共有フォルダや受信箱を見張り、請求書が届いた瞬間に勝手に処理を始めます。
朝出社したときには、夜のうちに取り込みとドラフト作成が終わっています。
頼んだ仕事をやってくれる状態から、頼む前に始まっている状態への変化です。
レベル7〜8:AIの部下と組織
最後の2段階は、AIに組織を持たせる領域です。
レベル7は**マルチエージェント**と呼ばれます。
経費チェック担当、売掛金の督促案内担当、月次レポート担当など、複数のAIを同時に走らせて管理します。
実際に、上場企業のSHIFT(シフト)は社内で4,400体のAIエージェントを稼働させ、バックオフィス業務を大幅に代替しています。
レベル8は**オーケストレーター**です。
マネージャー役のAIが、部下のAIたちに仕事を割り振り、チームとして成果を出します。
人間はマネージャーAIとだけ対話し、何をやらせるかの決定と、出てきた成果の評価に専念します。
自社の現在地を知り、次の一歩を踏み出す
レベル8まで見渡したとき、中小企業は明日からどう動けばよいのでしょうか。
いきなりレベル8を目指す必要はありません。
開発力を抱える企業の話であり、当面は世の中の向かう先を示す北極星として捉えておけば十分です。
多くのホワイトカラーの仕事は、レベル3から4の段階で十分に投資を回収できます。
重要なのは、業務ごとに適切なレベルを選ぶことです。
そのタスクでAIをどこまで信頼できるかと、失敗したときのダメージの大きさを掛け合わせて判断します。
入金消込はレベル4、経費チェックはレベル3、税務判断はレベル1のまま。
この凸凹な状態が正しい姿です。
そして、必ず1段ずつ上ることです。
レベル1と2を飛ばしてワークフローを組もうとすれば、AIの特性を肌で理解していないため失敗します。
レベル5以上の仕組みを作るには、前提として業務の棚卸しと言語化が欠かせません。
整っていない業務をAIに丸投げしても、混乱が高速で再生産されるだけです。
まとめ

業務を言葉にし、適切な段数を見極めます。
その地道な手順が、結果として最短の道になります。
- 「AI導入の8段階」は、人間の技量ではなくAIへの任せ方の深さで現在地を測る物差しである。
- レベルが高いほど良いわけではない。業務ごとの信頼度と失敗のダメージから適正な段数を選ぶ。
- レベル4(個人の利用)とレベル5(会社の仕組み)の間には壁があり、越えるには業務の棚卸しが必須になる。
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