
ソフトウェア業界において、パッケージソフトからクラウドへの移行は一時的に利益を削るのが常識である。
既存の売り切り型から月額課金型へビジネスモデルを転換する過程では、売上の計上タイミングが後ろ倒しになるためだ。
しかし、その常識を裏切る数字が出た。
勘定奉行のオービックビジネスコンサルタント(OBC)が2024年7月23日に開示した2027年3月期 第1四半期の決算説明資料である。
売上の半分近くが営業利益という異常値。老舗の巨人が、なぜクラウドシフトの真っ最中にこれほどの高収益を叩き出せるのか。
老舗がクラウドで加速する
OBCは設立から40年以上、中小・中堅企業の経理と人事労務を支え続けてきたバックオフィスソフトの老舗である。
freeeやマネーフォワードのようなクラウド生まれの新興勢力に対して、パッケージソフトの巨人がクラウドへの移行を進めている真っ最中にある。
今回の資料によれば、ARR(毎月入ってくる利益の年間換算)は476億円、クラウドARPU(1システムあたりの年間単価)は59.4万円、クラウド稼働は27.7万システムに達した。
注目すべきは成長の速度である。
ARRの成長率は前年同期比で14.4%増となり、前の四半期の12.6%増からさらに加速している。老舗が、ここに来て成長の歩幅を広げている。
営業利益率47.6%の構造
損益計算書を見ると、第1四半期の売上高は138.3億円で前年同期比13.8%増。売上総利益率は85.5%に達する。
そして営業利益は65.8億円にのぼる。
営業利益率47.6%。事業会社の感覚からすれば、にわかには信じがたい水準だろう。SaaS業界を見渡しても、成長のための投資を続けながらこの利益率を叩き出すのは別格である。
クラウドシフトの途上にある企業が、なぜ過去最高水準の利益率を維持できるのか。
理由は資料から3つ読み取れる。
1つ目は、継続収益比率が85%であること。売り切りではなく毎月課金が売上の大半を占めるため、収益が安定して積み上がる。
2つ目は、クラウド売上が91億円と前年比25.2%の伸びを見せていること。単価の高いクラウドへの置き換えが順調に進んでいる。
3つ目は、直販モデルである。代理店に払うマージンが発生しないため、利益が手元に残りやすい。
老舗でありながら、そのビジネスモデルは極めて現代的である。
同じARR476億円でも中身は正反対
ここで、偶然の一致に目を向けてみたい。
先日決算を発表したマネーフォワードのSaaS ARRは476.7億円。今回のOBCのARRは476億円である。
ほぼ同じ体力の2社だが、その中身は正反対と言っていい。3つの点で比較できる。
1つ目は成長率である。マネーフォワードが34%増と勢いがあるのに対し、OBCは14.4%増である。
2つ目は利益である。マネーフォワードの通期営業利益見通しがマイナス5億円からプラス15億円とトントン圏であるのに対し、OBCは四半期だけで65.8億円を稼ぎ出している。稼ぐ力はOBCが圧倒している。
3つ目は戦い方である。マネーフォワードが個人事業主から中堅まで幅広く面を取りに行く拡大路線であるのに対し、OBCは中小・中堅の基幹業務に絞って単価を上げる深掘り路線をとっている。
成長を買うか、利益を刈り取るか。
投資家の目線であればどちらも正解になり得る。だが、利用者目線で重要なのは、どちらも当分消えないだけの体力を持っているという事実である。基幹業務のソフト選びにおいて「サポート終了」は最大の懸念材料だが、この2強にfreeeを加えた構図は、利用者にとって安心材料となる。
標準搭載されるセキュリティとAI
後半は未来の話に移る。OBCが戦略発表会で掲げたキーワードが「セキュリティ&AI」である。
セキュリティ面では、多要素認証や全データ暗号化、24時間監視に加えて、ISMAP(日本政府がクラウドを調達するときのセキュリティ基準)に対応した。
事故が起きてからセキュリティ投資をアピールするのではなく、事故が起きる前から政府調達レベルを標準に据えている。
そしてAI面では、「奉行AIアシスタント」と「奉行AIエージェント」を追加料金なしの標準機能として搭載していく方針が示された。
財務分析AIアシスタントや連結会計の差額分析など、具体的な機能が資料に並ぶ。中でも目を引くのが、勤怠の申請漏れをAIが自動検知する機能である。
会社ごとに異なる就業規則を学習し、提出が必要な申請を従業員のダッシュボードに自動で表示する。労務担当者を悩ませる月末の督促業務が、標準機能によって消える。
使う側が自力でAIを組み込むのではない。いつものソフトが勝手にAI化していく。これがバックオフィスのAI化の主戦場である。
2027年4月という号砲
最後に、実務に最も影響を与える事実を確認しておく。
オンプレミス版(自社サーバーで運用する形態)の「奉行11シリーズ」は、全体で約11万システムが稼働している。
今回の資料で、このうち第1弾となる約3万システムが、2027年4月末でサポート終了を迎えることが明記された。
クラウドへの移行を促す号砲である。資料にはIT導入補助金2年分の活用という導線まで引かれている。
会社として全力でこの移行を進めてくることは間違いない。
該当する企業は、期限に追い込まれてから慌てるわけにはいかない。単純に同じ使い方でクラウドに載せ替えるだけでは、単価が上がるだけで終わってしまう。
移行のタイミングは、業務そのものを見直す機会である。
まとめ
本記事の要点を振り返る。
- OBCの第1四半期は、売上高13.8%増、営業利益率47.6%、ARR476億円と成長が加速している。老舗がクラウドシフトと高収益を両立する決算であった。
- マネーフォワードと同じARR476億円でも、成長を追うマネーフォワードと利益を刈り取るOBCという正反対の構造がある。
- 奉行AIエージェントが標準機能として搭載される一方、オンプレミス版には2027年4月というサポート終了期限が示された。クラウド移行は業務見直しとセットで進める必要がある。
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