
Xで453万回表示された1枚の地図があります。人材会社エイジレスの小出CEOが公開した、「日本の職業別求人倍率ヒートマップ」です。総務省のデータをもとに、職業ごとの「人の足りなさ」を色分けしたこの投稿には、8,000を超えるいいねが集まりました。
投稿の本来の趣旨は、人材事業を始める人に向けて「供給より需要が大きい職業を狙え」と伝えるものでした。しかし、これほど反響を呼んだのは、誰もが「自分の仕事はどっち側なのか」と気になっているからに違いありません。
地図の赤い側、つまり「求人はあるのに人がいない」領域には、建設、介護、接客、ドライバーといった現場系・対人系の職業が並びます。一方で青い側、つまり「働きたい人が多いのに椅子が少ない」領域にいるのが、バックオフィスの主戦場である事務職です。
この青いマスの中で、バックオフィスの仕事はこれからどうなるのでしょうか。AIと**BPO**(ビジネス・プロセス・アウトソーシング:自社の業務プロセスを外部企業に委託すること)の現場から見えている現実をまとめます。
453万人が見た1枚の地図と「求人倍率」の現実
椅子1つに3人が並ぶ「0.3倍」の構造
**求人倍率**とは、働きたい人1人に対して椅子(求人)がいくつあるかを示す指標です。1倍より大きければ人手不足、小さければ椅子の取り合いを意味します。
直近の日本全体は約1.2倍であり、ならして見ればやや人手不足の国です。しかし、職業別に見ると全体の平均には意味がありません。厚生労働省の職業別データによれば、建設や介護、警備などは軒並み3倍を超え、職種によっては10倍近くなります。1人に椅子が10個ある世界です。
一方で、一般事務はおよそ0.3倍前後にとどまります。0.3倍ということは、椅子1つに約3人が並んでいる計算になります。
この水準は最近始まった話ではなく、何年も続いている構造です。事務は昔から人気職であり、供給過多でした。そこにAIがやってきた。バックオフィスは、もともと椅子取りゲームだった場所に、椅子を減らす技術がやってきたという二重の構造に置かれています。
バックオフィスは本当に「人余り」なのか

「一般事務」と「専門性のある事務」の二極化
では、バックオフィスは完全に人が余っているのでしょうか。実際の現場の肌感覚は少し異なります。
BPO事業者の採用でも、事務ポジションの募集には確かに応募が集まります。しかし同時にお客様側からは、「経理の即戦力が採れない」という声も頻繁に聞きます。矛盾しているように見えるかもしれません。
その理由は、事務職の中に2つの層が存在するからです。
一つは、入力・転記・突合・ファイリングといった「作業」が主体の仕事です。ここは応募が集中する領域です。
もう一つは、月次決算を締める、給与と社会保険を正しく回す、制度改正に対応する、例外を判断するといった「業務」を握る仕事です。こちらは0.3倍の世界の中でも常に人が足りていません。
「一般事務」の椅子は減っていますが、「専門性のある事務」の椅子は埋まりません。同じ事務でも二極化しており、地図の青色は、この2つを平均した色にすぎないのです。
事務職の仕事で消える部分と消えない理由
AIとRPAの直撃を受ける「作業」
作業が主体の事務の椅子は、確実に減ります。
これは予測ではなく進行形の事実です。請求書の読み取り、仕訳の下書き、勤怠の申請漏れチェックまで、基幹ソフトの標準機能が次々とAI化しています。**RPA**(ロボティック・プロセス・オートメーション:パソコン上の定型作業を自動化するソフトウェアロボット)による自動化も進んでいます。作業だけを売りにした事務の椅子は、5年スパンで見ればはっきりと減っていくでしょう。ここをぼかして「AIと共存できます」とだけ言うのは、不誠実だと考えます。
AIが代替できない3つの領域
一方で、消えない側の理由も現場からはっきりと見えています。AIが代替できない領域は、大きく3つあります。
1つ目は、例外と判断です。イレギュラーな請求、揉めている取引先、グレーな経費など、AIは定型の処理には強いですが、例外の責任は取れません。
2つ目は、制度対応です。年末調整、法改正、インボイス、新リース基準など、日本のバックオフィスは毎年ルールが変わります。変化への対応は、そのたびに人の仕事となります。
3つ目は、中小企業の「何でも屋」性です。経理も労務も総務も1人で見ているような担当者の仕事は、職業マップの1マスに収まりきりません。この総合力は簡単には置き換わらないのです。
消えるのは職種そのものではなく、職種の中の作業部分だということです。
作業をこなす人から、業務を設計する人へ

生存戦略としての「仕分け」と「掛け算」
この状況下で、どちら側に立つか。現実的な生存戦略は3つあります。
1つ目は、自分の仕事を「作業」と「業務」に仕分けることです。毎日やっていることを書き出し、入力や転記に印をつけます。印だらけなら黄色信号ですが、それは同時にAIに渡せる仕事のリストでもあります。
2つ目は、渡す側に回ることです。AIに作業を配るための組織図を描けるのは、実際の業務を知っている人だけです。作業をこなす人から、AIに作業を配る人へ回る。これが事務職における一番現実的な出世ルートになります。
3つ目は、掛け算で希少になることです。「経理×AI」「労務×AI」のように、専門知識とAI活用スキルを掛け合わせます。0.3倍の青い海の中でも、この掛け算ができる人材は完全な売り手市場です。
地図の青いマスの中にも、赤い椅子は確実に存在しています。
まとめ
地図は現在地を示すだけであり、行き先は選べます。
- バックオフィスは全体として「人余り側」にあり、一般事務の求人倍率は0.3倍前後(椅子1つに3人)の世界です。
- 基幹ソフトの標準AI化が進む今、「作業」主体の事務の椅子は確実に減っていきます。
- 例外判断・制度対応・何でも屋の総合力は残り、「経理×AI」のような掛け算人材はむしろ人が足りていません。
- 自分の仕事を仕分け、作業をこなす側から「AIに業務を設計して配る側」へ回ることが現実的な生存戦略となります。
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