
「あなたの会社、経理は何人いますか?」
この質問には、ほとんどの経営者が即答できます。しかし、次の質問になると途端に誰も答えられなくなります。
「その人数は、多いのですか? 少ないのですか?」
バックオフィスの人数は社外に出ない数字であり、比較する相手がいません。売上や営業人員のように相場感がないため、自社の体制が適正なのか判断できないのです。本記事では、この誰にも聞けない問いに判断の物差しを持ち込みます。
「今いる人数」が暗黙の基準になる
比較対象がないと、どうなるでしょうか。ずっと2人で回してきた会社は、「うちの経理はこの人数」が当たり前になります。多いのか少ないのか、誰も検証しないまま固定化するのです。
見直しのきっかけは、だいたい事が起きた後です。担当者の退職、産休、あるいは急な増員。経理担当者が辞めることになって初めて、「この人は何をどれだけやっていたのか」と慌てるパターンが珍しくありません。
平時には誰も検証しません。だからこそ、規模帯別のベンチマークとなる目安のレンジが、判断の出発点になります。
人数を決める本当の変数

適正人数は、従業員数だけでは決まりません。
従業員数は、給与計算や入退社手続き、年末調整の件数に直結するため、目安の主軸にはなります。しかし、それ以外にも4つの変数が絡みます。
取引量。経理の負荷は売上の金額ではなく、仕訳や請求書の「件数」で決まります。現金商売で毎日レジ締めがある会社と、単価が大きく取引先が少ない会社では、同じ売上規模でも忙しさがまるで違います。
事業の複雑さ。拠点の数、事業部の数、在庫の有無、グループ会社の有無です。
ツール化の度合い。SaaSや自動化が進んでいる会社ほど、同じ業務量を少ない人数で回せます。
品質要件。上場準備や監査対応があるか、月次決算をどれだけ速く締めたいか。
従業員数を軸にした目安レンジをまず置き、残り4つの変数で自社の位置を補正して読むのが正しい使い方です。
規模帯で変わる体制の型と、実質人数の数え方
従業員規模が大きくなるにつれ、人数だけでなく体制の型が段階的に変わっていきます。
30名くらいまでは「兼任1名+外部の専門家」で回る規模です。経理も労務も総務も1人が兼ね、記帳は税理士、給与計算は社労士に出す形です。
50名に近づくと、入退社や給与計算の件数が増え、専任が立ち始めます。100名までの帯では経理と人事労務が分かれて複数名の体制になり、300名の帯になると部門化してマネジメント層が必要になります。
この目安と自社を比べるとき、数え方を揃えなければ意味がありません。
兼任者は、その業務に使っている時間の割合で数えます。総務と経理を半々でやっている人なら「経理0.5人」とみなします。これを**FTE換算**(フルタイム勤務者何人分に相当するかを表す指標)と呼びます。
外部に出している分も人数に含めます。税理士の記帳代行や**BPO**(業務の外部委託)も、外部の人数として足し合わせます。
「うちは経理1人だから少数精鋭だ」と思っていても、社長が資金繰りをし、営業事務が請求書を発行していれば、実質は1人分をはるかに超えています。見かけの人数と実質の人数は、ずれていることが多いのです。
人数が目安に収まっていても適正とは限らない

人数が目安のレンジ内に収まっていても、実質的に適正ではない会社があります。崩れ方は3パターンです。
1つ目は、属人化です。「その人が休むと給与計算が止まる」「その人しか請求処理が分からない」状態です。辞められない、休めない、増員しても引き継げない。人数の問題に見えて、実は構造の問題です。
2つ目は、兼任過多です。全員が少しずつ担当しており、誰の仕事量も見えません。「これは誰の担当ですか」と聞くと全員が顔を見合わせる。責任の所在が曖昧になり、支払い漏れなどのミスが起きます。
3つ目は、成長への未追随です。売上が伸びて従業員が2倍になったのに、バックオフィスの体制はそのまま。これは静かに進行し、残業の増加と月次決算の遅れで初めて発覚します。
これらに共通する根本原因は、業務量が計測されていないことです。誰が、何に、何時間使っているかが数字になっていないため、感覚でしか語れず手が打てません。
少ない人数で回すための手順
目安より多かった場合も、少ないのに回っていない場合も、いきなり人を増やしてはいけません。打ち手には順番があります。
まず標準化です。手順書を作り、フォーマットを揃え、締め日のルールを整えます。属人化の解消が先です。
次にツールです。SaaSや自動化で転記と手作業を減らします。
そして外注です。繁忙期のピークや変動する業務量を外に逃がし、社内は判断業務に集中します。
整理されていない業務を外に出したりツールに入れたりしても、混乱が移動するだけです。増員は、これら3つの手段を検討してもなお足りないときの最後の選択肢となります。
今後、AI-OCRや自動仕訳、生成AIによって定型業務の処理スピードは変わり、適正人数の水準そのものが変わっていく可能性が高いでしょう。しかし、判断や例外対応の人はゼロにはなりません。作業はAIと外部に任せ、社内の人は数字を読んで経営に活かす役割へ上がっていく。これからは「何人必要か」ではなく「人に何をさせるか」が問われます。
まとめ
適正人数を測り、体制を見直すためのポイントをまとめます。
- 適正人数は「従業員数」を軸に、取引量やツール化度など5つの変数で補正して考える。
- 比較する際は、兼任者の時間割合(FTE換算)と外部委託分を含めた「実質人数」で数える。
- 属人化や兼任過多など、人数がレンジ内でも適正が崩れるパターンに注意する。
- 体制改善の打ち手は「標準化→ツール→外注」の順。増員は最後の選択肢とする。
規模帯別の具体的な目安レンジは、ホワイトペーパー『従業員規模別 バックオフィス適正人数 早見表』にまとめています。自社の実質人数を測れるセルフチェック記入シートも付属しているため、現状の業務の棚卸しから始めてみてください。
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